ライ麦狼の寝床

このブログはフィクションであり、実在の (以下略

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「同じ空の下で」   □ 6 □

DATE: 2006. 05. 20 CATEGORY: 小説
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02/07/03(水)
 
『ストーカーみたいな行動を、取ってしまいそうです』
 ・・・、ストーカー。
 しちゃいそうじゃなくて、実際にしてんだよなぁ。
 KKさんの写真を挟んだ文庫本を片手に、僕は駅の改札を見つめ続けていた。写真だけを持ち歩いたら傷めてしまいそうだし、カムフラージュもかねてだ。
 この駅は高架型。JRの改札は一つだけだ
 その改札正面。
 喫茶店とパン屋を合体させたタイプの店。ガラス張り店内の、改札側のカウンター席に、僕は陣取っていた。この店独特のコック服のウエイトレス達は、冷たい視線の収集砲火を放つ。
 かまうもんか。
 高校生の帰宅時間帯じゃない午前中から、予備校へも行かない。
 これで三日目。
 忠犬ハチ公は、死んだ主人を何年待ち続けたことで、立派な犬として銅像になった。きっと僕は、KKさんをあと三時間も待ち続ければ、立派な不審人物として警察の厄介になっているだろう。
 かまうもんか。
 改札を見つめていた視界に、あるものを捕らえる。

「氷川? 」

 何故か氷川がこの駅を利用していた。奴はこの街の住民じゃない。実家は高校近くの神社。どうしてだ?
 奴もこちらに気付いた。心底意外そうな顔で片手を上げる。
 入店。

「待ち合わせか?」
「みたいなもの・・・だったら良いんだがな」

 何時の間に雨になったんだろうか、氷川は湿った傘を手にしている。
 僕の視線に気付いてか、

「今朝の天気予報通りだな。向こうはかなり降ってて、こっちもそろそろ振り出すぞ」

 向こう、とは都内の事だろう。
 天気予報なんて最近見ていない。KKさんの事ばかり考えていた。かなり参っているなと、自分でもわかってはいる。

「そうか。でも氷川、何で待ち合わせって思ったんだ。単に一休みって事もあるだろう」
「ならそんなに焦った雰囲気はねぇだろう。それに乾ききったコーヒーカップで、一休みか? 予備校の帰りにしても、荷物が無い」
 ベーカー街の探偵みたいな推察。やはりこいつは、シーフだ探偵だって雰囲気のある奴だ。

「そんなに、焦ってるか俺」
「ってか、宮代に前にラグナロクで会った時は”どうでもいい” ってオーラ纏ってたんだが、こう今は、我を通そうとするような、やっぱり焦りの様な、そんな感じだな」

 氷川は暗に聞いてきている。何があったのか、と。
 流石に僕は悩む。
 僕が今抱いている感情に付きまとうものは、いかにも青春な、恋話の恥かしさだけではない。
 ストーカー同然の張り込みの後ろめたさ。そりゃ古典的な、”偶然を装った待ち伏せ” ってのもあるだろう。けど三日もやっていれば、何か線を越えてしまった気がする。
 ・・・線か。
 感謝の念を表したかった。それから始めたメールのやり取り。何時にか僕は、恋文としてメールを送っていた。
 何時から感謝が恋慕へと変っていのだろう。
 明確な線なんて無い。
 熱烈なアタックと、ストーカー行為に、線引き無いのだろうか。
 恋は盲目。
 何もかも、線も、自分も見えない。
 ただこの身を動かすものは衝動。
 KKさんに会いたい。
 彼女は僕のことを見ている。なのに僕は、彼女の事を知らない。まるでマジックミラー越しに向き合っている様だ。そんなマジックミラーなんか、叩き割りたい。
 解ってる。もっと恋愛とかいうやつは、相手のことを思い、さっして行動するんだと、解ってはいる。
 けど僕は、この衝動が押さえられないんだ。
 KKさんに会いたい。KKさんに会いたい。KKさんに会いたい。KKさんに会いたい。KKさんに会いたい。KKさんに会いたい。KKさんに会いたい。KKさんに・・・・・・・・・会いたい。
 氷川の言葉じゃないが、この我がままを通したい。
 だから、後ろめたさを喉の奥でねじ伏せ、全てを話した。
 話を聞き終えた氷川。暫しの無言の後、

「しゃあねぇ。ヤバイ企画は俺の専売特許と思っていたが、止めはしねえよ。ウマーに蹴られたくないし」
「ウマー?」
「言うだろ、他人の恋路を邪魔する奴は、ウマーに蹴られて死んじまえって」
「・・・氷川」

 僕が感謝の言葉を言うよりも早く、

「で、どんなコだ。宮代の惚れたKKさんてのは」
「ああ、これ。俺んちに郵送されてきた。住所は未記入、消印は足立区なんだけど、この駅の近くに住んでるはずなんだ」

 氷川にKKさんの写真を見せる。もちろん、制服姿の方だ。
 勝手な言い草だが、写真とは言え、水着姿を他の男になんかに見せるつもりはない。

「あぁ、吉良大付属女子ね」
「え、」

 氷川は即答。
 これと言って特徴の無いブラウスの制服。なのにこいつは、そのスジの玄人の如く、あっさり答えやがった。
 純粋な驚きだけでなく、ちょっとばかり疑念を込め氷川を見る。

「あっ違うぞ。別にマニアとか言うんじゃなくてな。いるんだよ」
「いるって、何が」
「吉良大付属女子のコが、白岡のバイト先にいるんだよ。言ったろ前、腕っ節の強いメイドさん、って。そのコ」
「メイド? そんな事言ってたか。俺、聞いた覚えないんだけど」
「言った!! 。まぁあの時のお前じゃ、憶えてないだろうけどな」

 確かに。前に氷川と、ROで会った事は憶えている。けど、どんな内容だったか、全然憶えていない。
 ともかく、重要なのはそんな事じゃない。

「行こう。そのコがKKさんのこと知ってるかもしれない」

 僕は少し慌て気味に席を立つ。先払いのシステムのおかげで、さっさと外へ出れた。
 後を追ってきた氷川が後ろから、

「そうか?、ただ同じ学校ってだけだろう。このKKさんも、特に特徴が無いし、あえて言うならお前の好みって事だろう」
「俺の好み?」
「小林にてるだろう、目の辺りとか少し・・・スマン」
「いや、かまわない」

 とは言ったものの、ザックリときた。
 /kooko/の言った、『あの子が好きなのに、ふられたコを正面から見れるの?』。
 又しても、あの言葉が蘇る。僕は小林を見れなかった。じゃあ、KKさんを・・・見れるのか?
 それどころか、小林の時の様に、告白を断られるのではないか。
 どうしようもない恐怖が、背すじを這い上がってくる。
 けれど、僕はもう脚を止めたくはない。
 KKさんに会いたいから。
 駅東口前のローソンで、2種類あったうちの安い方の280円のビニール傘を買って、降り始めた梅雨の雨の中を、足早に進んだ。
 ビニール傘が予想より小さくても、靴の中に水がしみ込んでも、綿パンの裾に水が跳ねようが、かまうもんか。
 しばらく氷川に案内されて歩き、その屋敷に到着。

「でかいな、冗談抜きで」

 地元だというのに、僕はその屋敷を今まで知らなかった。
 僕や小林の家のある地区から、駅を挟んで反対側とは言え、この規模の物件を知らなかったとは。

「だろう。なかの防犯設備も凄いぞ。ただ警備会社へ連絡が、電話回線一本だからな、ネットで落ちてるソフトを使ってお話中に―――――」
「そんな事いいから、早く入ろうぜ。ほらインターホン押すぞ」

 以前に忍び込んだ時の手口を、解説しようとした氷川。やつを押し切り、俺は門のインターホンを押す。
 かなり間を置いてから、ぷつん、とあちらと繋がった音。
 そして返答。

「お待たせしま・・・宮代君かい、それに氷川君も」
「その声、白岡か。でも何で俺達だって解ったんだ」
「カメラだよ。ちゃんと映ってるからね」

 氷川に肩を叩かれ上を見上げれば、樹枝の陰と門扉の二箇所。明らかに防犯目的なカメラがあった。

「待っててね。今、門をあけるから」
「遠隔操作で門が開くとは、いったい誰の家だ」
「会社経営をする夫婦、とその子供二人。兄妹ともに高校生との事。あとは住み込みのメイド二人と、用務員の白岡。系七人が住んでる。メイドさんの片方は、高校に行きながらの勤労だよ」

 氷川はこの屋敷の家族構成を公表。まるで時代劇に出てくる押し込みの一味だ。この分だと、間取りや金目の物の配置も確認しているのではないだろうか。
 開いた門を抜け、玄関へと歩く。やはりデカイ。庭園と言うより、自然森を連想させる樹園。
 その中に、かなり新しい造りの洋館が建っている。窓を大きく多くとり、何所か大正風レストランを思わす雰囲気。
 猫の額ほどの庭にはめ込んだ物置の上から、ベランダへ飛び移れるくらいに狭い、僕ん家や小林ん家とは大違いだな。
 白岡が、どうしてこんな所で住み込みをしているのだろうか。
 今は屋敷に白岡だけ。だから食堂で茶でも飲みながらとのこと。
 ちなみに出された紅茶は、僕の家と同じ日東紅茶の黄色いティバッグ。意外と庶民的だった。

「変ったな」

 再開した白岡への第一印象は、それだった。
 頬がややほっそりとしただけで、相変わらずの中性美少年ぶり。
 ただ以前の人畜無害な可愛さだけでなく、こう、筋のある優しさというか、面構えが変ったというか、僕の拙い表現では表しきれない何かが、確かに変っていた。

「そう、かな?・・・そうだね」

 ティバッグを上下に揺すりながら、小首を傾げ白岡は疑問、次いで確信。いろいろとかみ締めるよう頷いた。

「医学部受けなかったことで父さん達と喧嘩して、家に居ずらくなって、この屋敷で住み込みして、少しは成長したかな。でも宮代君だって変ったよ、上手に言い表せないけどね」
「だな、確かに宮代は変ったよ。一人称も”俺”に変ってるしな」

 ああ、気が付けば何時の間にかそうだ。
 僕は自分の事を”俺”と言っていた。こうして心のうちでは”僕”なのに、声に出しては”俺”になっている。いったい、何時からだろうか、僕自身さえわからない。

「成る程、”俺”になってる。けど氷川は相変わらずだな」
「うんうん。氷川君は変ってないね」
「どういう意味だ、あん?」
「昔から勘の鋭い奴だったし」
「うんうん。別に成長していないとかじゃなくてね、がらり、と変ってはいないんだよ。だぶん、浪人していないからかな?」

 中身は同じだというのに、口当たりの良いカップで飲んだだけで、いつもと違って感じる紅茶を味わい、僕も同じ結論に至る。
 それはあるだろうな。白岡も言っていた親との喧嘩とか、気の使い合いとか、今まで無かった事を経験している。
 変化ではなく劣化。
 そう言ってたけど、僕自身は成長してる。
 少なくとも、僕は浪人した事でKKさんに出会う切欠を手に入れた。予備校代や生活費を出してくれる親には悪いが、浪人万歳だ。
 そうKKさんだ。
 僕は文庫本から写真を取り出し、事のしだいを一から、最初のメールが届いた辺りから話し出した。
 白岡が「うんうん」と聞いてくれていた時、

「ただいまぁ。シンさん、今日実習でクッキー焼いたんですけどぉ、た、食べもらいますかぁ」

 食堂の扉が開き、少女が駆けるように入ってきた。
僕は思わず立ち上がる。リボンタイの色こそ違うが、KKさんと同じ制服だった。

「あ、お客さんですか?。初めまして、シンさんの同僚の蓮田伊奈で―――――、っ氷川っ!!貴様よくもぬけぬけと、また侵入しやがったな。今度こそ灰になりやがれっ!!」

 自己紹介の途中で、行き成り口調を変えた蓮田嬢。氷川に気付くと、一気に掴みかかる。
 逃げ遅れた氷川。
 頚動脈に背後からのチョークスリーパーが決まった。俺が以前やったのとは違う、奴の服の襟で締め上げる本物だ。
 ちなみに”シン”とは白岡のこと。白岡新それがフルネーム。

「君に訊きたい事があるんだ、えっと蓮田さん。この写真のコ知らないかな? 、君と同じ学校の人なんだけど、ほらこのコ」
「へ?」

 氷川を締める手を緩める事無く、きょとんとこちらを見る。表情と手の動きにかなりギャップがある。
 写真を見ながら一言。
「えぇ~、三年の先輩なんて知り合いませんし、何か、胡散臭い」
「頼むよ。警戒する必要なんてない。調べてくれないかな?」
「むぅ、行き成り言われても出来ませんよ」
「伊奈ちゃん、僕からもお願いするよ。この宮代君は僕の親友でね、絶対に悪い奴じゃないから」
「シンさんがそう言うのならぁ、あの、微力ながらお手伝いしますよぅ。シンさんの為に」
「本当、ありがとう。助かったよ蓮田さん」
「うんうん。やっぱり伊奈ちゃんはいいコだからね。ありがとう」
「そ、そんなぁ。恥かしいですよぅ」

 白岡のお願いの途端に、蓮田嬢は表情を軟化。乙女の恥じらいと言うのだろうか、口調も眼差しも柔くなっている。
 まぁ、白岡と蓮田嬢の関係は、特に勘繰らないが・・・そろそろ氷川を解放したほうが良さげなのだが。
 顔の色、真赤だったのが段々と紫に変ってきたんですけど。
 
   
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ブログにコメントありがとうございました。資料も感謝。今後ともよろしくお願いいたします。
しかし手慣れた文章ですねー。小説。面白いですよ。ちょっとぼくなんかの知らない世界で、こういう内容のもの(コスプレのやつも含め)読むのは初めてです。ライ麦狼さんは、こういうことに詳しいスジの方なのでしょうか? それとも喫茶店で取材(笑)されたんでしょうか? うーん気になる。
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