ライ麦狼の寝床

このブログはフィクションであり、実在の (以下略

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『同じ空の下で』   □ 1 □

DATE: 2006. 05. 17 CATEGORY: 小説
昔書いたROのプレーヤーサイドのお話。
”どこかで耳にした話”を元に、私がアレンジしました。

「同じ空の下で」

       ライ麦狼

 
rol2_fig1.gif



 
「彼女に振られた
 
 大学に落ちた
 
 ROを始めたのは、そんな春だった」


 
 
02/03/04(月)
 
 日常が思い出に変わろうとしている。
 高校生活もあと三日。
 今日と明日で卒業式の準備をして、明後日の卒業式本番を迎えてしまえば、“長いようで短かった“ とオリジナリティの欠片もない表現だが、妙にそれがしっくりくる三年間が終わってしまう。
 あと三日だ。
 今日は準備という名目だが、これは学校側のサービスだ。
 卒業前にみんなを集め、話の一つでもしろってことらしい。
 桜が咲く過剰演出がなくても、卒業の足音が頭上で響く空気を吸い込めば、肺の奥がシュンとする様なドキドキする様な気がする。
 卒業式の準備なんて、実際のトコは何も無い。
 それでも学校のはからいに、僕としてはけっこう感謝していた。

「で、こっちで髪型、こっちで髪の色が変えられるんだ」
「ほぅ、いいなこれ」
「うんうん、いいよね」

 氷川が実演するRO(ラグナロック・オンライン)のキャラクター製作。僕と白岡が覗き込んで賞賛する。
 黒板の脇に設置された教室の共用パソコン。制服が今だ詰襟とジャンパースカートという、いかにも中堅所といった県立高校のくせに、よくもまぁ全クラスに設置したもんだ。
 学校側はかなり無理したのか、セキュリティとか制限はあってないようなもので、エロ画像どころか、こうして僕らがネットゲームをダウンロードする事も可能だ。
 やわらかなBGMが流れる、17インチの四角い世界の中でキャラクターがゆっくり回る。その髪型と髪色が氷川のクリックに合わせ変化していく。
 なるほど。その二点が変るだけで、キャラクターのイメージも変るしオリジナル感も増すものだな。

「うんでもって、名前を入れて、あっ例えば『宮代 真駒』って入れてだな」
「え、僕の本名?」
「お前のアカウントだし、取り合えずだよ、取り合えず」

 途惑う僕を軽くあしらう氷川。そのままテキトーに、初期能力値を割り振っていく。

「おい、何でいかにも魔法使い系な割り振りしてんだよ」
「世間一般で宮代と言ったら、魔法使いだろうに。ぱすチャで魔法使いのエキスパートを極めて、コレットと組んでは火力にモノを言わせた戦術とってたじゃん。」
「うんうん」
 なっ、てめぇ氷川っ!!。真っ昼間の教室で、大きなお友達向けのゲームの話をすんなよ。しかも世間一般ってなんだよ。
「更にソードワールドやロードスもソーサラーだし、蓬莱学園だって錬金術研と旧図管理だしな」
「うんうん」

 くどいぞ氷川。けど、俺にも反論はある。

「選択ジョブがいつも同じってなら、白岡だって、いっつもプリースト選んでたろ。しかもこの美少年様は、狙ったようにマーファだしな」
「うんうん、そうだね。僕は神官系ばかりだったね。本職の神官さんは盗賊系だけどね、ねっ氷川君」

 そう言えばそうだ。白岡の指摘で気が付いた。実家が神社のくせに、氷川のやろうは、いつもシーフやスカウトだったな。
 ちなみに氷川は、来月より国学院の神道科に通うとの事。
 で、ぶっちゃけ僕と白岡は、受けた大学全て全滅してたい。もう諦めの方はついてるから、さして気落ちはしていない。

「まぁ良いじゃねぇの。で、ここをクリック。はい出来上がり」
「こらっ、取り合えずとか言ってたけど、出来上がってるじゃん」
「まぁまぁ、1サーバーにつき、3キャラクター作れるからさ。ちょっと懐かしい言葉で言う、無問題」
「何が無問題だ。恥かしいっての、勇者に自分の名前付ける小学生じゃあるまいに!!」

 と言いつつも、僕は小学生じみたハッチャケぶりで、氷川の首を華麗にチョークスリーパー。
 そんな取り止めも無いじゃれ合いもそろそろ最後。卒業してからは出来ない事。不可能ではなくとも、今までの様には出来ない。回 数的にも、心情的にもだ。
 本当に、日常が思い出に変ろうとしている。
 教室の入り口に目が行った。見慣れた人物があらわれる。
 ちょうど小林明日香が入ってきた所だ。
 日常が思い出に変ても、彼女への思いは、思い出にしたくない。
 だから、

「わりっ、ちよっと用事」
「うんうん、行って来なよ。このままになんかしたくないよね」

 どうやら白岡には、僕の意図が筒抜けらしい。
 まぁ僕と小林の仲は、友達以上恋人未満で公認されてるふしが、無くは無いんだけどね。
 それでも温かく送り出してくれるのは、ありがたい。

「小林、ちょっと良いか?」
「あ、真駒。何々、お昼に何か食べに行くの?」
「いや、あ、ここだと言いづらい事なんだけど、どっ―――――」

 僕が、”どっか別の場所で”と言い終えるよりも先、小林と一緒に入ってきた狭山芳美が、

「あーーーっ!!。あれでしょ、あれ、卒業前の告白ってやつ。きゃーーーっ、もう青春タレ流し状態じゃん」

 狭山はハイテンションに叫んだ。いやいやをする様に、頭を左右にブンブンふり悶え、トレードマークの長い黒髪が乱舞する。

「やはり告白ポイントは伝説の樹の下?、体育館裏?、それとも体育館倉庫のマットの上?、ねぇねぇ!!そう言えばさぁ、体育倉庫の『使用後は片付ける事』ってあるけど、あれって、何の使用後だろうね。やっぱり箱ティッシュとかあるのかなぁ? ねぇねぇ!!」

 ・・・・・・誰かコイツを止めてくれ。
 その願いは意外な形で、最悪の形で叶えられた。
 小林が一言だけ。

「ごめん」

 え?。
 理解できな・・・
 いや、一瞬で理解できた、理解はできたけど ・・・・・・。
 信じられなかった。
 認めたくなかった。
 告白する事への緊張はあっても、断られる事への恐怖は感じていなかった。それどころか、断られるなんて・・・。
 己惚れだったのか?。
 けっこう良い感じだとばかり・・・。
 去年の夏、小林の妹が事故で亡くなった頃は、確かにギクシャクしていた。けど、もうそれ以前と同じ状態に戻っている筈だと。
 何故?、と訊く事すらできない。

「そんな明日香、ねぇどうしてっ?!」

 僕が訊けなかった事を、狭山が訊く。
 けれど小林は無言。身体を折るように顔を伏せ、入り口の引き戸に寄りかかる。ガシャリと、薄っぺらな擦りガラスが音を立てる。

「あんなに真駒君のこと好きだって言ってたのに、クリスマスもバレンタインも、手作りのプレゼント、渡し損ねたってグチってたじゃない」
 
 無言。
 教室中が静まりかえる。
 無言が重い。
 静寂が痛い。
 その苦痛から逃れるように、僕が何でも良いから、何かを言おうとした。バカみたいでもいいから何か言おうと。その時だ。

「真駒のこと・・・好きだよ。けどダメ・・・」

 小林はうつむきながら、涙と一緒に言葉をこぼした。
 幾つかの滴が床に落ちる。

「もう遅いの・・・。もっと・・・何でもっと早く・・・言って・・・・・・。ごめん・・・・・・ダメなのに今まで・・・」

 滴の数より少ないかも知れない、途切れ度切れの言葉。
 たった9個に句刻られた言葉に、僕は崩壊していた。
 同時に小林も耐え切れなくなったのか、寄りかかっていた引き戸を打ち鳴らすほど、弾ける様に小林が突然駆け出す。彼女を追いかけることもできず、呆然と立ち尽くしていた。これ以上無いほど無様に、立ち尽くしていた。
 それが、日常が思い出に変った頃の事。
 日常は思い出に変り、思いは思い出ではなく、後悔として通り過ぎていった。
 空は青かった。
 

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