ライ麦狼の寝床

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『でうす・えくす・♥』

DATE: 2007. 08. 25 CATEGORY: 小説
『でうす・えくす・♥』







森だ。森が広がっている。
暖流に恵まれたアルベルタの、鬱蒼とした緑の迷宮。
ウンバラのジャングルと違い、乾季と雨季の明確な土地。茂る植生は硬い常緑樹と地表近くの草本類が多い。
そして何より、南方へ足を踏み入れなければ人を襲う魔物なんて、そうそういない。
そんな初心者向けのフィールドに歌声が流れてくる。バードが歌う聴衆に聴かせる歌ではなく、少女の声で紡がれる、ただ唇からこぼれる何気ない歌声。

「♪銀毒仕立ての帽子を被り 街へと繰り出すジャントルメン♪
 ♪奇想天外な玩具の群と 呪文の羅列を従えて~♪」
歌を謡うのは、転職仕立ての女商人。まだまだカートを引く速度も遅い。
それにしても、森の中で少女が歌うにはあんまりな選曲だ。何の歌か知る者が聴けば、絶句しかねる。ある歌劇の序盤に流れる、あまりにも幻想と絶望を含みすぎた、悲惨な結末への複線歌。
そんな歌に誘われるかのように、少女を襲う者が現れた。たとえ彼女を襲う魔物はいなくとも、彼女を襲う人間なら、この森にいたのだから。

「へっへへ~~、ようようお嬢ちゃん、こんな所を一人で歩いていると危ないぜ」
「そうそう、オデらみたいなのに襲われちゃうぜ」
「ふっ、怯えることは無い。我が筋肉で面倒見てやる。そういうことだ」

彼女の前後を阻むように茂みから現れたのは、1人のモンクと2人のシーフ。明らかに友好的でも紳士的でもない。
彼らが言う“面倒”がどんなことかくらい、少女にも明白だった。

「ふぇ? こんな所?・・・ふえぇぇ~~ん、もしかしてボク、“19日東館1ホール男性向け G58~H14”辺りの、ラグナロク18禁作品に迷い込んじゃったんですか?!」
「ま、迷い込んデない、迷い込んデないから。ゴゴは“ノ24”だから。っーか迷い込むっデ何?」
「そんな局地的なボケ、RO本のサークルチェックしてないと判らないし、マズイから本当にマズイから。そのスペースのサークルさんに失礼だから、許可なんて一切とってないし」

明白だったけど、なんか微妙にサークルスペースを間違えている?
しかも怯える少女は、シーフ達の話など聞きもしない。

「まだキスも知らないのに、コミケ3日目、それも東館に迷い込むなんて、ああボクは何て不幸なんだ・・・。一般参加者の9割はドス黒い情動に刈られ、残り1割は転売目的という魔境。ソフ倫の規制もないから“登場人物はすべて18歳以上です”って便宜的なコメントも付けずに、問答無用に純潔を散らしてしまうなんて・・・・・・」
「だからそういう発言は控えろ、一般参加者の皆さん失礼だから。いくら本当の事でも作品内での発言は控えろって。とりあえず落ち着け、な、な」

「きっときっとそんな事言って安心させておいて、どんなに泣き叫ぼうが助けの来ない深い森の中、湿った土の上で組み敷いて、まだ未発達な青い果実を汚し冒すんだ。ボクは破瓜の痛みに涙しながら、地面を掻き毟り腐葉土を握り締め、声にならない嗚咽を漏らすんだ。三人で代わる代わる攻め立て・・・、ちょうど三人だから、お口もお尻も一緒に三ヶ所同時に」
「・・・う、うむ。それはするつもりだな」

「破瓜の痛みと絶望に呆然としているボクに、レベルも達していないのにハイスピードポーションとか飲ませて、ムリヤリな調教とかするんだ。“ご主人様“と”お兄ちゃん“を足して”お主人ちゃん“とか呼ばせるんだ。ヒドラの触手を前とお尻に突っ込んで、抜いて欲しかったらしっかり舐めろとか言っておきながら、ご褒美だとか言いなが2本目、3本目と追加して・・・振動する青石で栓をしちゃうんだ・・・・・。他にも、挿入しながらペンチで脇腹を抓ったり、焼き鏝を押し付けたりして、あそこがギュッて締め付ける感度を激しくするんだ」
「お、お主人ちゃんて、何かな?、かな?」

「調教が済んだらメントルの下は全裸で街を歩かせたり、深夜にマタの首輪だけで散歩したりするんだ。お金にこまったら履いてない状態で、プロンテラの裏露地でミルク売りとかさせるんだ。ミルク1本1Kで、冷たいミルク瓶を、歳の割には大きなボクの胸に挟んでお客様に飲んでもらって、追加料金でお客様のモノを胸に挟んだり、逆にお客様のミルクを浴びたりしちゃうんだ」
「いや、我らは流石にそこまでするつもりは無いぞ」


「そうだそうだきっとそうなんだ。ひっく、ひっく、うえぇぇ~ん、ボロボロの使い捨ての性奴に汚されて、最後は首なしBOTにされちゃうんだ~~。そんなの酷いよ~(泣)」

どちらかというと、少女の妄想の方がよっぽど酷いような気もする。
だが構図としては、無頼の男達と泣き叫ぶ年端も行かない少女。こんな場面に次に現れるものといえば、

「そのコから離れろっ!!この下郎ども、あたしが成敗してくれる」

そう正義の味方ではないだろうか。


今回の正義の味方は、桃色気味の赤髪をした女ブラックスミス。年齢は17くらい。天津の血が混じっているのか、象牙色の肌とオリエンタルなアーモンドアイ。
装備はウエスタングレイスとブラッドアックス。そして花カートを引いているところ見ると、中級者程度の腕の者見受けられる。
たまたま通りかかったのだろうか。女BSには、泣き叫ぶ少女とガラの悪い男共としか目に入っていない。良くも悪くも少女の妄想部分は、都合が良いくらいに認知していなかった。
何かどうしようもない不条理を感じる状況に、男3人は顔を見合わせる。
・・・・・・どこか危ないヤンデレちっくなマーチャントよりも、まともそうなBSを獲物にしたほうが、無難な気がすることで共通しているようだった。

「ほらお嬢ちゃん、この蝶の羽で早く逃げな。こんな連中、あたしが蹴散らしてやるさね」
「あぁお姉さま、ありがとうございます。お言葉通り逃げますが、あとで曲がったタイを直してくださいね。ボクのお姉さま♥」

ある意味被害者な気がしないでもない男たちを無視して、百合の香りが微かに漂う乙女達のやり取りは進行。
マーチャントは、投げ渡された蝶の羽を握り締め、転送音と共に基点へと飛んでいった。

「さあ、無垢な少女をドス黒い性癖に染めようとした不埒な悪党共、このホノカ=アーヴィンが天に代わって、引導ってヤツを渡してやるよ」
「あの~、たぶんあのマーチャント、そんなに無垢じゃなかったと思うんだけど・・・・・・・・・(汗」
「問答無用、悪即斬だ。死んで詫びろ、盛りの付いたオス犬共がっ!!」

あんまりと言えばあんまりな状況の中、リーダー格のモンクが溜息を付き一歩前へでる。

「はぁ、純白と思えた幼きスズランは、何故にか猛毒を有する。 ならば期せず凛と咲いたクロユリ。それを力ずくで愛でるもまた一興。といったところか」
「ほう、なにやら悪党が大きな事をほざいているけど、手前らなんぞ私の斧で去勢してやるさね」
「図に乗るなよ斧使い。そんな重鈍な武器など、我が筋肉の前では遊戯も同然。後悔と快楽をくれてやる」

モンクがゆっくりと戦闘体制を染め上げていく。
丹田を意識した深い呼吸で肺が開く感覚。力を漲らせた双腕とそれにより手甲の皮が軋む音。四肢の全てに酸素と意識が行渡り、彼の身体と精神は戦闘用のそれとなる。
武僧の全てが戦いに染まった頃には、自然と構えも出来上がっていた。やや前傾姿勢の拳闘スタイル。それでもオープンフィンガーの構えは、単純な打撃屋では無いことを物語っている。
それに呼応して、ホノカもブラッドアックスを振り被る。
柄の石突側を左手で刃側を右手で掴み、すぅと右足を後ろに引く。左前の半身になりながら重心を落とし、斧の石突を前へ突き出す。
腐葉土が積った柔らかな足場。それを確かめように、両者とも重心確保に余念が無い。
互いに視線は射抜くように鋭く、相手をヤルという覚悟が完成していた。正に一触即発。張り詰めた殺気が周囲を支配する。
モンクの言う通り、ブラッドアックスは両手持ちの武器だ。武器全体が長い上に、その重量は斧の中でもトップクラス。こんな木々の生い茂る森での戦闘には、あまりにも不利なエモノといえる。特殊な能力付加も無くはないが、あまり戦闘に役立つとは思えない。
一方の無手であるモンクは、その鍛え上げた四肢そのものが凶器。森の中だろうと屋内だろうと、変幻自在に旋回と屈伸を可能とし、何度も襲い掛かる凶悪な武器だ。
この時点で勝敗はかなり傾いている。
しかもホノカの構えに問題がある。
ポールウェポンと称される長柄の武器を、振りかぶりながらも石突を前へ突き出すスタイルは、防戦や受け流しを考慮した構えだ。
モンクに先手を打たせて、その打った後の隙をねらう。いわゆる“後の後”を取ろうという腹積もりか、無駄なことを。
武器の相性とこの場の地形特性、互いの戦闘スタイル。それらから判断すれば、一度懐に入られたならば最後、両手斧の使い手に間合いの確保なんて出来はしない。
まだ最初の一撃から全力で打ち込まれた方が厄介だった。
もっとも、仮にホノカが一撃必殺を狙ったとしても、モンクはそれよりも先に、初撃と続く2撃目を打ち込む自身はある。その為の前傾姿勢、“先の先”を狙った構えなのだから。
それだけの読みと布陣を、既に敵は完成させていた。
まさにそんなモンクが踏み込もうとした瞬間、意外にもホノカの方が先に動いた。
それも真後ろに・・・・・・というか、全力疾走で、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・逃げ出しやがった。

「ちょっとまてーーーっ!! 今までの武器や戦闘スタイルの解説は何なのだ。こんなにやっておきながら無駄にする気なのか!?」

モンクの読みや布陣はおろか、作者のちょっぴり実体験入った解説さえも無駄にしやがって、ホノカは逃亡。
モンク達を無視してホノカは走る。しかもアイテムの詰まった重いカートを引いているのに、意外と足が速い。3人が慌てて追いかけるが、差が縮まりそうも無かった。

「くそっ、ブラッドアックスの速度増加ボーナスかっ!!」

そう、先ほどの“あまり戦闘に役立つとは思えない”能力付加だが、それは移動速度+10%。戦闘には役に立たなくとも、こういう場面では地味に厄介な能力付加だ。
しかも道はどんどん細くなり、分厚く落ち葉の積もった悪路といって差し支えない。もはや獣道の一歩手前。それだというのに、女BSは着かず離れずの距離をたもっていた。
それでも崖沿いの登り坂に差し掛かったとたん速度が落ちてきた。
急傾斜に加えひと一人分の狭い道幅。左は崖下へ吸い込まれるような断崖、右は見上げるような絶壁。それが彼女の足をすくませているのだろうか?

それは違った。

今がチャンスと、モンクたちは一気に坂を駆け上ってくる。・・・罠だとも気付かずに。
ホノカは追っ手が坂を登り始めたのを確認すると、商品の詰まった花カートを分離。くるりと振り返ると、カートを坂の下目掛けて、勢いつけて蹴り落とした。
右は見上げ左は急落下の断崖絶壁。花カートの幅は道幅一杯、高さも1.2メートル。避ける場の無い一直線。カートで轢き殺すつもりかっ?!
狩る側の筈が、気が付けばまんまと罠にはまっていた3人。2人のシーフは後ろへ、坂下へ逃げ出す。だがモンクただ1人は違った。

「この急傾斜、逃げたところで間に合うものか。ならば我が筋肉で止めて見せる」

逃げるどころか一歩前へ踏み込んだ。本気で受け止める気だ。
重心を低く、低く、クラウチングスタートの様に低くを落とし、全身の気を手繰り寄せる。あとは呼吸を合わせ、覚悟を決めるだけっ。
凶悪な質量に重力加速度を宿した花カートと、一歩も退かず真正面から迎え撃つモンク。両者がぶつかり・・・・・・捕らえた。
モンクは左肩からぶつかる様にカートを両腕で掴む。慣性を背後に逃がす無粋な事すしない。筋力にものを言わせあらん限りの力で踏ん張った。
それでもカートは、大人しくなんかしてくれない。
落ち葉の降り積もった坂面は、あまりにも柔らかく、そして滑る。モンクの両足の轍を作るだけで、止まりもしない。喰らい付いた体勢のまま、10数メートルは押し戻される。
・・・・・・だが、モンクは止めきった。落ち葉の層から顔をだした樹の根に、蹴りを入れるように無理やりな足ブレーキを慣行、見事カートを止めきった。

「ふは、ふははは、見たか我が筋肉に不可能の文字は ――― 」

斬撃
突然の真上からの衝撃と同時に、分厚い刃が右鎖骨と肺腑を食い破り、胸の半ばまでを断ち割った。右肩から肺を縦断する力任せの切断。むしろ解体と呼ぶべきだろうか。

「そうだね無いね。あんたの汗臭いズウタイには、不可能って文字は無いね。けどさぁ、右肩から先も無くなっちまったも同然だね、おい」

声の方を見上げれば、カートの上に飛び乗ったホノカが、モンク目掛けブラッドアックスを振り下ろしていた。
太陽を背にした逆行。こちらを見下ろす表情は陰になりはっきりしない。それでも声と口元だけは薄笑いを浮かべていた。
ホノカは、カートで轢き殺すためだけにパージした訳ではなかった。
相手がカートを破壊、ないしは止めようとした場合は、カートで出来る死角を使い気付かれること無く接近。破壊・止めた瞬間に奇襲をかける目的もあった。

「が、ぁぁく、ぁらああ゛ゅーーーーーぁぁぼぁぁっ!!」

絶叫。
吐血交じりの水っぽい叫びと鮮血を撒き散らし、敗北を認識しながらもモンクは戦闘を続行。
関節ごと神経を断絶された右腕ではなく、まだ動く左腕でカートの上のホノカの掴みかかった。狙うは、彼女の右足。

「ひっ!!」

モンクはホノカの右足を掴んだ瞬間、間髪おかずに手前に引きずり倒す。バランスを崩し、彼女はカートの上に姿態を投げ出すように仰向けに転倒。丁度、両脚の間にモンクを挟む体勢。
あまりにも無防備な状態。モンクとってみれば、1.2メートルの高さに都合良く捧げられた生贄も同然だ。
カートに寄りかかるように圧し掛かり、殴る、殴る、殴る、左手一本で不器用に殴るだけだ。
もはや格闘技術や戦術も無ければ、肩からもげかけた右腕も、断傷からこぼれる流血もはみ出した肋骨も関係ない。怒りに任せ殴るだけだ。
顔面をガードしようとするホノカの腕を容易く掻い潜り、拳が何度も打ち込まれる。
10発ほど殴ると、モンクは狙いをホノカの顔面から胸元へ移す。
殴るのではなく、BSの制服であるブラ状に縛られた白シャツを、無理やりたくし上げる。
まろびでる豊かな双丘。平均を大きく上回りながらも、垂れる事無くツンと上を向いている。戦闘の興奮からか、全体に汗ばみ谷間に滴が流れ、先端の桜色した果実も自己主張していた。
モンクはその肉丘を左手で鷲掴み、蹂躙する。むっちりと練り上げられた上質のパン生地のような張りと、剥きたてのゆで卵のような肌の質感を、我が物のように堪能する。
カチャリという、聴きなれぬ金属音を耳にするまでは。
金属音。その発生元を確かめれば、それは自らの左手。いや、そこにかけられた黒光りする古い手錠だ。
慌てて引っ張るが、既に手錠の反対側のわっかは、カートの支柱にしっかりとかけられていた。半ばカートに乗る体制で手錠拘束。
モンクが慌てた隙を突き、ホノカが拘束を逃れる。カートの反対側へ飛びのき、斧を構え直す。
その表情には、何の感情も浮かんではいなかった。
殴られて腫れ上がった顔には、怒りや恐怖の感情も無く、瞬きは少なくやや首をかしげ、のっぺりと此方を見つめる。
それは観る者に、先程斧を振り下ろした時の薄笑い以上に、恐怖を覚えさせる。正面から迫り来る恐怖ではなく、背筋を粘液が這うような恐怖だ。
その無表情のまま、ホノカは再びカートを坂下へ押し落す。蹴るのではなく、自らもカートを押し、一緒に坂を下ろうとする
とっさに押し戻そうとするモンクだが、只でさえ滑りやすい地面に加え、今の体勢ではろくに踏ん張ることも出来ない。このまま坂下り落ちる事になったら・・・・・・

「や・・・ま、ちっど・・・やめ・・・」

モンクが吐血のため声にならない悲鳴で訴えるが、ホノカもカートも止まらない。むしろ、モンクの怯えや訴えを見るうちに、無表情だったホノカに感情が、あの薄笑いが戻ってくる。
しかもカートが坂を下り始めると、薄笑いは哄笑にかわり、速度とモンクの怯えが増した頃には、完全な笑い声となっていた。

「あは、あははははっ、あぁはははぁはぁははぁっ!!」

笑い声を響かせながら、ホノカとカートとモンクが疾走。ぐんぐん速度を増して坂を駆け下りる。感情も速度もトップギアが入った。
“最後は止まる“という概念など無い加速は尋常ではない。たいした間も置かずに、真っ先に逃げ出していたシーフ達に追いつき、射程に捕らえた。
坂の終わりまであと僅かだ。もう少し行けば道幅も幾分広くなり、直線で襲い掛かる悪魔をやり過ごすスペースもある。あともう少し・・・、
そんな希望を抱いた瞬間、背後から衝撃に喰い付かれた。
激突、そして横転。
何がどうなったのか誰も解らない。追突したホノカさえも、良く解っていない。きりもみする視界の中、柔らかな落ち葉と下草のクッションに投げ出された事ぐらいしか認識できなかった。
残り3人の内、2人のシーフにしても同じ様なものだ。
最後のモンクに至っては、そんな事言ってられる状態じゃない。
追突の衝撃で横転したカート。
着弾した旧式大砲の弾の方がまだ大人しいと思えるくらいの、派手なローレルやバウンドを繰り返し、その度に手錠で繋がれたモンクを下敷きする。
最後は地面を大きく抉りながら止まったが、その時も律儀に、モンクを磨り潰すように地面に押し付けていた
結果、ただでさえ死にかけるような傷を負っていたのだ、もはや完全に意識失い、呼吸とも痙攣ともつかぬ微動を繰り返している。
一般的にそういう物は、死体と呼んでかまわない筈だ。
しかしある意味において、芸術作品なのかもしれない。
人間の意志が介在しては達成できないであろう、前衛的に折れ曲がった四肢は、偶然と運動エネルギーが生み出した芸術と呼べるかもしれない。
芸術というものが人の心を揺さ振るモノならば、少なくとも2人のシーフの心を揺さぶっているのだから。圧倒的な恐怖という感情を。




「さぁ次は、どっちが斬られたい? あん、オス犬共」

ゆっくりと立ち上がったホノカ。汗や返り血で湿った肌に張り付く落ち葉を拭い、衣服を整えながら残りの獲物を見下ろす。
体格的には、シーフ2の方がよっぽど大きい。
なのにこの女BSの黒光りする瞳に睨まれると、まるで見下ろされているように竦み上がってしまう。

「何ならあたしが、泣いて喜ぶくらい公平に決めても、かまぁないさね」

そう言ってホノカは蝶の羽を一枚取り出す。2人のシーフとホノカ自身。そのちょうど中間地点になる場所へ、その羽を放り投げる。
下草の茂みに僅かに隠れる、基点転送用アイテム。ホノカはそれを顎で指し、

「1枚だけくれてやる。そういう趣向はいかがさね?」

仲間の数は2人。脱出アイテムは1人分。つまりそういう事か、1人だけ逃がしてやる、死にたくなかったら奪い合え、と。
冷静に考えれば、他にも選択肢はある。2人同時に反対方向へ走り出せば、いくらかの生存率が望めるだろ。
けれど冷静になんてなれない。2人のシーフは、モンクを惨殺された恐怖と、立ち込める鮮血の生臭さに、完全に飲み込まれていた。
2人とも視線は遠近感だけでなく、ぐらぐらと平衡感覚をも失っている。
目に入るモノも、互いに目を血走らせた傍らの仲間、たった1つだけの蝶の羽、妖斧の切っ先から血を滴らせるホノカ、まだ時より痙攣をするモンクの死体、この4点のみ。
視線は4点を絶え間なく往復し続ける。
視線の動きも、神経を這い上がってくる恐怖も、どんどん加速していく。・・・・・・限界が訪れる。
小柄なシーフ1が先に動いた。
数メートル先の蝶の羽向かい、頭から地面に跳び込む。助かりたい一心に、遅れて動いたシーフ2など省みず両手をのばし、・・・・・・取った。
シーフ1の両手が、たった1つきりの切符を手に入れた。今にも泣き出しそうな顔で、心から安堵するのも束の間、

『スティール』

背後からのしかかったシーフ2がスキル発動。シーフ1から、蝶の羽を奪い取った。

「てめーそれは俺の」
「先に動いてたくせにうるせぇっ!! オデらはシーフなんだ、かまわねぇんだ、オデが助かるんだっ」
「クソ野郎が返せっ!!」

本来の勝者は奪い返そうとするが、体格で負ける上に、立ち上がる間も無く顔面を蹴られ転倒。更に続けざま、腹に顔面に両腕に、蹴りを執拗に打ち込まれる。

「助かるのは、助かるのはオデなんだ。お前はここで死んどけ、おら」

命を繋げる切符を手にした喜びに、何もかも忘れ、もともとあってないような仲間との絆さえも忘れ、シーフ2は蹴り続ける。
蝶の羽を握り締め発動させる時でさえ、彼は切符を失った仲間を蹴り続けた。
たった1枚の蝶の羽が発動する。シーフ2の足元が瞬き、基点への転送が起きる。
その瞬間、旋風が走った。蝶の羽を掴んでいたシーフ2の右腕目掛け、ホノカが上段からブラッドアックスをフルスイングする。
転送
アイテム使用時の独特の音が鳴り、転送が完了した。
なのにシーフ2はその場に残ったまま・・・。転送されたのは、

「・・・腕が、オデの腕が飛んでっちまった!!」
「ほう、どうやら斬られたかったのは、うすらデカの右腕だったようだね。・・・・・・くたばりな、見苦しい下衆がっ!!」

再び旋風が走り、シーフ2が一撃のもと斬り捨てられた。
これで2人目。
目の前に転がった仲間・・・、とはもう思いもしないモノを見つめながら、シーフ1は尋ねた。

「な、何でこいつを殺したんだ、こいつが俺から奪い取ったからか?」
「はぁ? 確かに見苦しく生かすに値しねぇが、別に奪い合ったってかまわねぇぜ。そもそもあたしは“1枚だけくれてやる”としか言ってないんだからな」

そうだ。この女BSは“1枚だけくれてやる”としか、・・・・・・蝶の羽を手にした者を助けるなんて、一言も言っていない。

「まさか、あんた初めから・・・、先に蝶の羽を取った奴を殺すつもりだったのかっ!?」
「さぁて、どうだろうかな」

あれだけの恐怖の中に、望みをチラつかせておきながら、ホノカは答えをはぐらかす。
そればかりか、何か面白い事を思いついた顔をして、シーフ1の鼻先に妖斧を突きつけた。

「仲間に裏切られた可哀相な手前に、選択肢ってヤツをくれてやるよ。安心しな、4つとも“男になる”なんてふざけたモノじゃない」
「選択肢?」
「そうそう、簡単な選択肢だ。フラグだ高感度アップだではなく、正解と不正解の簡単な選択肢。間違えればバットエンド行きってやつさね」

これ程楽しい事はないと言った顔で、ホノカはシーフ1に選択肢をつげる。
その顔は少し前まで、シーフ達が浮かべていた顔。マーチャントを相手に、その命と尊厳をもてあそぼうとしていた顔だ。
いまごろになって気付いた。
・・・・・・“こんな場面に現れる3番目の登場人物”は、正義の味方なんかじゃなかった。

「これから、手前はどうする。
  A  あたしに殺される
  B  心から反省して一生をかけて罪を償うことを誓い、優しいあたしに見逃してもう
 さぁ、どちらが正解か選びな」

・・・・・・答えが見えた。
蝶の羽の件がなければ、シーフ1はBに飛付いていただろう。けれど今となれば、ホノカの考えが見えてくる。
正解とバットエンド行き、それしかないと言う。ならばAが正解。
Bが不正解。Bをえらんだらバットエンド行きなのだろう。
それでも彼はBを選ぶしかない。
自分がしようとしていた事と、さして変わらない事が目の前に転がっている事に気が付きながら、それでも選ぶしかなかった。

「・・・・・・・・・B」
「残念、正解はAだ。んじぁ、バットエンドで先生に教えてもらって来なっ!!」

振り下ろされる妖斧を見上げたシーフ1の視界。
そこには、冷たい断命の刃だけでなく、対照的に暖かで柔らかい木漏れ日が満ちていた。









惨劇は風と共に通りすぎ、今はただ樹枝がゆれて木漏れ日のシャワーが降り注ぐ。
それは、妖斧の血を拭うホノカにも、地面に横たわる3つの死体にも、静かに降り注いでいた。立ち込める血臭さえも、緑の草いきれの中に薄れていく。

「ふ、またつまらない物を切ってしまっぐぁっ!!」

どこかで聴いた台詞をキメようとしたホノカ。だが言い切る直前、後頭部に衝撃が走る。
痛む後頭部をさすり振り向けば、足元にはブルージェムストーンが転がっている。

「青石、・・・・・・むぅ、何をするんだギュア、痛いじゃないか」

涙目で非難するホノカの視線の先。下草を掻き分け、ギュアと呼ばれたプリーストの女が現れた。神官の証である紫色の法衣をびっしり着込んだ細身の淑女。
明らかに殴りプリと呼ばれる武装神官とは違い、支援に特化しているのが見て取れる。
それでも、こめかみに浮かんだ青筋はなかなかの迫力。相当ご立腹な様子だ。

「何気に可愛らしい涙目で訴えてるんじゃありませんわ。“何をするんだよ”ですって? それはこっちの台詞ですの」
「か、可愛らしいだなんて、そんな(ぽっ」
「行き成り恥らわないで下さいましっ!! ぽっじゃありません、ぽっじゃ。私が言いたいのは、さすらい狼を狙っていたのに、突如“乙女の助けを求める声が聞こえる”とか仰って走り出し、こんなアルベルタ付近まで突っ走ったかと思うと、また惨殺死体を3つも、えっと今月トータル11人目ですか? まぁ何人目でもよろしいですわ、とにかく何をしやがるんだってことですわ」

ギュアの言葉を整理すると、ホノカは随分と離れたフィールドから先ほどのマーチャントの助けを聞いたうえに、今月だけでも、この3人の他に8人もぶった斬っていることになる。
・・・ いや、ホノカの移動速度を計算すると、マーチャントが助けを求めるよりもかなり先に、予知するかのようにホノカには聞こえていたことになる。

「何をと問われれば、・・・そうさね、正義の裁きを下したまでさね。ほらあたしは基本的に正義の味方だからな」
「応用と実践においては、思いっきり快楽殺人者でありませんのことっ!!。なにが“つまらない物を”ですか、心から楽しそうに惨殺していらっしゃったくせに」
「ほらオーディン様も、“汝の為したいように為すがよい“って―――」
「仰ってません。うち宗教の主神をどっかの暗黒神にしないでください。教団にケンカ売ってらっしゃって? 何なら異端審問局で“学習”されてきます?」
「嫌だ、あれ学習じゃなくて洗脳って言うんだ。新保守派とか原理主義の手先になっちまう」
「なら冒険者とはいえ、宗教関係者を前にして、そのような台詞は慎んで下さいまし。あと、またハエの羽を使われて、腕だけ飛ばされたのでしょ」
「いいや違うぜ、今日は贅沢に蝶の羽を使ったんだ」
「変わりませんわ、ていうかカプラ嬢にいい迷惑です。いきなり目の前に生腕だけ転送されたら、人によっては素で泣きますわよ。ちっ、どのみち飛んでった腕の再生はでませんからね」

悪態をつきながらギュアはスキル発動

『リザレクション』

ブルージェムストーンの存在と質量が、物理法則を無視して、完全にエネルギーに位相転位。ギュアの周囲に光と意思の渦となり立ち込めた。
それは力ある祈り。尊き巡礼の道を歩み、辿り着いた者が持つ奇跡。
奇跡なんて起きないから奇跡と呼ばれるのかもしれない、けれどそこにあるのは間違いなく奇跡の祈り。
祈りは主神オーディンへ届く。
魂の運び手であるヴァルキリーの慈悲のもと、死者の魂を現世に呼び戻され、そればかりか、世界そのものに干渉し、破壊された肉体に最低限の修復が起きる。
蘇生
最後に斧を振り下ろされたシーフ1の身体に、再び微かながらの命が燈った。意識は戻らぬとも、傷は埋まり呼吸が再開されたならば、それは死体ではなく生きた人間と呼べるのだろう。
続けてギュアは、シーフ2・モンクにも詰まらなそうにリザレクションを行う。それが終ると今度は『ワープ・ポータル』を開いた。

「ほら、そっちのシーフとモンクのお二方はホノカがやってくださいね、いつもの所に送っておきますから」
「むぅ、こんな牡犬共は蘇生なんかしないで放置して、食物連鎖の最底辺あたりで分解してもらったほうが良いのに、何でいつも蘇生した後にプロンテラ城の地下牢に直送なんてするんだよ」

渋々従うホノカだが、死体遺棄というより大きな生ゴミでも扱うようだ。手で触ろうともしない。ブラッドアックスで引っ掛けたり足で押したり、ずいぶんとぞんざいなやり方で、ワープ・ポータルの光柱へ、文字通り蹴り落とした。
一方のギュアもシーフを乱暴に扱うが、あくまで人間の範疇での乱暴ぐあい。念のため後ろ手に手錠をかけてからスローイン。ホノカに比べればまだマシなのだろう。

「そんなもの、最近強くなったホノカを、殺人者にしたくないからですわ。残念ながら犯行の後に、取り消しているだけなのですが、・・・・・・それでもなんですの」
「だから何度も言うがよ、こんな連中―――」
「どんな連中だろうと、それを殺してしまっては、ホノカは殺人者です。殺した相手の罪によって、貴方の罪が相殺される訳じゃない。ホノカがあの3人を恨んだり憎んだりする真っ当な理由があっても、殺めてしまっては殺人者なのですわ」
「そんなきれい事、並べないでくれ。ギュアとはそういう教義とかじゃなく、本音で話したい」
「聖職者としてのきれい事なんかじゃありませんわ。半年前に貴方と出会った者として、いえ図々しい言い方なら、ホノカを拾った私の、わがままな本音なんですの」

半年前、ホノカはギュアに拾われた・・・いや救われたのだ。
要は冒頭のマーチャントと同じ。
・・・流石に、あんな暴走っぷりは無かったが、ホノカが助けに来なかったならマーチャントに訪れていたであろう結末と、同じ事がかつてホノカに降りかかったのだ。
ホノカがまだBSになる前、マーチャント時代の事だ。
とある廃墟を根城にする冒険者どもに囚われ、慰み者となってしまう。何日にもわたり何人もの男に身体をもてあそばれた。ホノカの精神が擦り切れる寸前、たまたま通りかかった、やはり当時アコライトだったギュアに助け出されたのだ。
ギュアとはそれ以来の付き合いで、ホノカの男性恐怖症と相成って、ただならぬ仲と仲間内で噂されていたりする。

「あんな悲しい思いを、辛い思いしたホノカが、罪を犯すのは嫌なのですの。ホノカを苦しめた人間と同じ立場で並んでしまうのは、悲しすぎますわ」
「けど、あたしはあんな連中ブチのめしたいんだ。・・・同じ目に合う人がいたなら、それを止めたい。そりゃ、痴漢やセクハラ相手にヤリ過ぎの時もあるけど、どうしても衝動が、・・・ブチのめさなきゃ怖いんだ、・・・・・・だから」


俯くホノカ。自然と自の体身を抱きかかえるように、両腕をまわしていた。
そんなホノカを見詰めながら、ギュアはため息を一つ附き、ホノカを両腕で包みこんだ。



「だから、“まぁ何人目でもよろしいですわ”ってことですの。ブチのめすなとは言いませんわ。ブチのめすならば、蘇生させる私のわがままも聞いてくださいましね。ホノカが過去と衝動から救われるまで、私はずっとそばにいますから」
「あ、ありがとうギュア。うん、これからもブチのめすよ」
「って、率先してヤらないで下さいましっ!! あくまで取り消しているだけなのですから、もう。ほら、さすらい狼を狙うのでしょ、もう時間がありませんわ急ぎましてよ」

ギュアは軽い諦めとちょっぴりの気恥ずかしさから、身を放してホノカを置いて歩き出す。
その後を、安心しきった顔のホノカが追いかけていった。彼女の顔には、あの薄笑いなんてどこにも無かった。



End




―  追記  ―

少し離れた樹の影。冒頭のマーチャントが顔を半分だけ覗かしていた。
二人のユリユリしたやり取りを、睨みつけていた事には、また別のお話。

「あの年増プリーストを亡き者にしなければ、ボクの想いは成就しない・・・ふふ、ふはは、待っててねボクのお姉さま♪」








という事で、夏コミでコピー本出した作品を公開・・・・・・いや、ネタストックから持ってきたものだけに・・・いろいろ突っ込みどころありますが、
幻想廃人好きです、はい。
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