ライ麦狼の寝床

このブログはフィクションであり、実在の (以下略

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女4人、26歳

DATE: 2007. 05. 03 CATEGORY: 小説




 舌先から喉へ、甘い微発泡が流れ込んでくる。
 ほぅと自然に溜息を吐けば、体中の澱んだものが出て行くみたい。
 流石はシャンパンの銘品、カバァだね。よく、
 『シャンパーニュ地方のスパークリングワインのみを敬意を込めて”シャンパン”と呼ぶ』
 なんて言うけど、私はどうでも構わないと思う。
 美味しければいいんだもん。
 けど杏子は、そんな私よりも上を行く ”どうでもいいぶり” を発揮している。
 どれくらい ”どうでもいい” かというと、ゴディバのテラミィスと瀬戸内産のイリコを一緒にほお張り、シャンパンで一気に流し込んで、出てきた台詞が

「・・・・・・かったりぃ」

 破壊力抜群の、呑みっぷりと台詞の組み合わせね。

「ちょっとぉ杏子。フラれたアンタを励ますために、わざわざみんな集まったのにその台詞?」
「激しく葉月の意見に同意するぞ。私だって有給とってきたし、鼓(つづみ)は旦那に実家帰ってもらってまで、家を会場提供したんだぞ、あ」

 私の意見を、亮子が後方支援。ちなみに葉月とは私のことね。
 一方、会場の提供主である鼓は、いつも通り健気にも杏子のフォローを入れる。

「私は構わなかったよ。ほら純一さんが喜一を連れてってくれたし、みんなとお酒飲みたかったし、杏子ちゃんがそう言う台詞いうのもいつもの事だし」

 鼓、最後のはフォローになってない。
 まぁ、いつもの事と言えばいつもの事なのだけど、高校からの親友四人が集まり、フラれた杏子を慰める。
 持ち寄ったお酒と食べ物も、いつも毎回各自の趣味に走っていて、共通性がなかったりする。

 私がちよっぴり高級志向の、ワインやシャンパン、チーズとブランドスイーツ。
 亮子はビール一筋。それも学生時代の留学先の影響受けまくりの、ドイツビールとソーセージ。
 鼓は缶チューハイ。流石は主婦と言うべきか、手作りの惣菜を披露している。と同時にイリコで健康嗜好なチョイスも忘れない。
 で今日の主賓の杏子は、いつもビールだけでなく流行りモノのカクテルなんかを織り交ぜているけど、今回は芋焼酎をピックアップしてきてくれた。

「だってさぁ、たるいんだもん。この年になるとフラれても、お祭って感じじゃないわよ」

 杏子は本当に気だるく続ける。
 若い頃は、フラれた事もイベントの一種だったと。
 フラれた事でヤケになったり、悲しさの反動でテンションがテッペンはいったり、もっと良い男を見つけてやるぞと闘志が湧いり、いつもと違う感情を楽しんでいた。
 さらに、悲劇のヒロインのつもりで悦に入ったりもできたそうだ。
 それが今では、ヤケにもならなければ悲しむ気力もない。頭を過ぎるのは、暗証番号を元カレの誕生日にした銀行口座をどうしようかという、自虐も誘えない面倒事とか言ってる。
 そんな聞くに堪えない杏子のグチ。

「うんうん、そうだよね」

 それに対して、・・・・・・一度もフラれたことの無い女が相槌を打ちやがった。

「ちょっ待て鼓っ!! 中学からのずっと一緒の彼氏と、大学卒業と同時に結婚と出産したくせに、何を言ってんの」
「ぅ~ん何となく解るかなぁ~って、にゃははは」
「たっく昔から鼓は、適当ってかおおらかってか……」

 まぁ突っ込みをいれた私も、実はフラれた事はない。私の場合は、フル前段階の関係になった事すらないんだけどね・・・・・・
でもね、私も何となく解る気がする。とくに年齢どうこうって所がね。

「確かに年かねぇ26ってのは。そろそろ芽が出ないとヤバイ年齢だよねぇ、私にとってはさぁ」

 ”マンガ家の卵” である私としては、はやく孵化しなければと思ってしまうお年頃だ。
 創作の世界では、年齢に関係なく誰も皆が、自分の殻を割ろうと、暗く小さな卵の中でもがいている。
 時々殻の外から聞こえてくる他の人の産声に、勇気付けられたり、喜んだり、妬んだりもする。やっぱり聞こえてきてしまう、孵化できなかった卵の泣声に、冷静に考え直してみたり、悲しんだり、嘲けったりもする。
 本当に年齢とか立場とか関係なく、誰もが厚く硬い殻の外の世界を、夢見て恐れて、時々は諦めて、でも諦めることなんて出来なくて、懸命に割ろうとしている。
 それでも卵には鮮度というものが関係してくる。ほかほか御飯にかける卵も、マンガ家の卵も一緒なんじゃないかなと最近考えている。
 新人賞受賞者のペンネームなんかより、その右に括弧で括られた年齢に目が行く私自身の行動に、焦りを覚えているから。

亮子も頷く。

「私だって葉月といっしょよ。入社5年目なんだから、もう実績作っておかなければ、この先の展望が見えない。後ろからは毎年新人が入って来る訳で、椅子の奪い合いは始ってるわ」
「へっへーん、私は関係ないね。OLなんて腰掛気分でいいもん。女は恋よ恋」

 フラれたばかりの女が、恋の重要性をといている。
ようやくエンジンが掛かったのか、杏子がメンソールのタバコ――― 銘柄はルーシア―――に火を付けながら亮子にくってかかる。

「誰かみたいに、仕事に逃避したりしないもんね。負け犬街道突っ走りたくないしぃ」
「仕事をなんだと思ってるの、遊びじゃないんだから。女とか男とか関係なく、人として何かをしたいの私は。だからエンジニアとして、」
「何度も聴いてますって、でも私は女子高生も短大生も楽しんだし、OLも楽しんだからフィナーレを飾りたいの、解る? 」
「惰性ね」
「そう惰性で結構、楽しけれゃいいのよ」

 昔からそう、杏子と亮子のケンカはこんな感じ。いつも同じだ。
 それを止める私の手法もいつも同じ。鼓に話を降って、方向性がズレつつも意外性たっぷりの意見を引き出すって手法。
 私は鼓の前に置かれた鶏の野菜巻きを取るフリをしつつ、彼女に視線で合図してから問い掛けた。

「で、年齢とかどう思う鼓は?」
「羨ましいな、私は」

う、羨ましい、と来ましたか。こりゃまた意外な返答で。
 哺乳瓶を持つ赤ちゃんみたいに、缶チューハイを両手で持って一口、二口。一児の母はちょっと間を空けてから語りだす。

「私、働いた事もバイトしたこともないから、自分で稼いだお金で食べるご飯が、どんな味なんだろうって考えちゃう」
「大した事はないわよ、男に奢らせたメシのほうが美味しいって」

 杏子のちゃちゃも、聞き流して鼓の語りは続く。

「そんな、安全な所で守られ続けた、何も知らない私が、喜一を育てる資格があるのかなって、・・・・・・不安、だよ。何も知らないもの、あの子に教えてやれることも、・・・・・・皆が知ってる事も、・・・・・・社会とか世界とか」

 呑みかけの缶をテーブルに置くと、鼓は下に俯き、ゆっくりと言葉を区切る。小柄な彼女が俯けば、私たちからはその表情は窺い知れない。

「恋とか愛とか言ってもね、純一さんしか・・・・・・男の人知らないし、ずっと一緒だったから、結婚前から家族みたいな感じだよ。・・・・・・家庭に早く入りすぎた。・・・・・・・・引きこもりと一緒だよ・・・これじゃ。羨ましい・・・な。だから私は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・くぅ~」
「「「って寝るなぁーっ!!」」」

 今度は三人そろって突っ込んだ。








 その後直ぐに鼓は寝落ち。亮子も会社の愚痴を言いながらダウンした。

「なんか亮子の台詞、最後の頃のあの人と同じ。酔うたびに、自分の会社の事ばかり言って、私にとっては遠い他人の事だってのに。係長じゃなく俺に仕事を回せ、とか。俺が段取りを確保しといたから上手くいった、とか」

 ここは聴きに徹していようと、私は思った。ようやく彼女が、弱音とか本音とかを吐き出したのだから。そういったものを吐いたからって、建設的な考えやら手段が浮かぶ訳じゃないけど、ただ一時の救いにはなるのだから。もっと杏子には弱音を吐いてほしい。
 杏子は元恋人の逸話を、癖を、仕草を、18才の新しいカノジョを作って自分から去っていった男の全てを吐き出した。

「結婚考えてたのになぁ。自分も年だし、親も年だし、あの人しかいなかったし。鼓みたいに幸せな家庭を築きたかった」

 ここで私は、ある事に気がつく。

「ねぇ杏子、確かもう一人、付き合ってる男いなかった? たしか劇団員の」
「彼とは不安でね。本当に好きなんだけど、この人と一緒になったら将来とかどうだろうか、とかね。何か散々男の商品価値に目端を効かしてたら、好きな人と恋できなくなっちゃった」
「劇団員ねぇ、マンガ家に成れてもない私が言うのもなんだけど、確かに不安かな」

 杏子は頷く。けど愁いに瞼を震わせながら、未だ火の付いたタバコを灰皿代わりの空き缶へ入れる。

「私も芝居じたいが好きなんだ。4回だけ、公演の手伝いさせて貰ったの。あの熱い感覚初めてだった。学校のイベントとかとも違う、皆仲良くだけじゃなくて、なんだろ、鬩ぎあいっていうのかな。自分達で物語を現実に引き摺り降ろすんだ、って。けど私は才能無いし」

 杏子は額に張り付く髪を掻き揚げる。涙が滲んでいる事を隠しもせず、鼓の飲みさしの甘ったるい缶チューハイに手を伸ばした。

「だから私も羨ましい。才能のある葉月が羨ましい。私にも才能があれば、もっと人生を楽しめたかもしれない。何かを見つけられたかもしれない」

 自分には何も無い、と杏子は続ける。
 私の様に打ち込むものもない。亮子のように成し遂げようという仕事もない。鼓の様に育てようという子供もいない。
 何かムカついた。
 私は杏子から缶チューハイを奪いとって言ってやった。

「だったら今から、打ち込むものみつけろよ、仕事がんばれよ、子供でもつくりゃいいじゃん」

 私も酔ってる。くさいし訳の解んない台詞だし、なにより奪い取った缶チューハイの味なんて解んなかった。
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テーマ: 自作小説
ジャンル: 小説・文学

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時間が無いので、昔の作品を掲載してお茶を濁してみます。
・・・・・・ROのギルメンの紹介ネタ・・・難航気味です(涙
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