ライ麦狼の寝床

このブログはフィクションであり、実在の (以下略

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水族館偽研修日記 ○月へ( ;・_・)丿 日

DATE: 2007. 03. 21 CATEGORY: 小説
この作品はフィクションであり、実在の人物・団体・出来事・人としての礼儀・等とは関係無い筈なのですが、一部、事実が含まれる恐れが御座います。

○月 ×日 晴れ

『ダッシュ・ダッシュ・奪取』



大木技師長の指揮のもと、公園の湿地にてヨシ・マコモなどの採取。
生きた状態のが必要なので、根っこを切らないように、丁寧に掘り起こすのがポイント。浅く広く根を張るタイプの植物だから、掘るというより、“めくる”感覚に近い。
あとは公園管理局に”無断”で採取しているので、こっそり掘るのもポイント。
以上2点に気をつけて作業していたら、偶然通りかかった隣の美術館の高橋さん(24歳女性)に目撃された。
・・・見張りを立てておくのもポイントだったかな?
 
「何やってんです!!。公園管理局に許可取ったんですか?! 緑地を荒らして、もう!!」
 
先週、美術館の植木に、モリアオガエルの卵を木がしなる程大量に生み付けさせた事を、まだ怒っているらしい。かなりケンカ腰だ。
今年は気温が高く雨も多かったから、両生類はベビーラッシュみたい。可愛いオタマジャクシがたくさん見られて嬉しいかぎりだ。けどあの時、高橋さんにその事を言ったら、スゲー怒ってイーゼルで殴られた。
 
「いや~急ぎでねぇ。クロベンケイガニの水槽に、生えている状態で入れなゃ、ダメなんだぁ」
 
急ぎだからと弁明する技師長。
うんうん、急がなきゃ。新鮮な活きている葉っぱが無いと、あのヒトたち、かなり凄惨な共食い始めるから。

「それにどうせ公園の連中ぅ、シルバー人材に頼んで、植物の浄化能力を計算しないでぇ、バザバサ狩ってくべぇ。有効利用、有効利用ぅ」
「有効利用したかったら、許可を取ってからにしたらどうです」
「公園の池で、ホテイアオイを増やしすぎた時の事ぉ、まだ根に持ってるらしくてぇ。門前払いなんだよぉ」
「それは水族館側の自業自得でしょ」

あれは確かに自業自得かな・・・。植物で水質浄化してやる、とか言って勝手にホテイアオイを放り込んだら、爆発的に増殖しちゃって、恋人向けの手漕ぎボートがジャングルクルーズ風味になったもんな。

「でもホテイアオイは売れるぞぉ、ウォーターガーデニングでなぁ」
「商売に走るなっ!! 公共施設でしょうが」
 
怒る高橋さんと、のらりくらりと逃げる技師長。
県立公園と、その中に建つ美術館と水族館。仲悪いんだよな~。・・・原因は何となくわかるけど。
ともあれ、引っこ抜いたブツを持ってトンズラ開始。






○月 △日 晴れのち雨(スコール?)

『中国ですから~』


蒸し暑い上に風も無い、じっくり攻めて来るタイプの夏の日。金魚展の解説員をした。
夏といえば金魚。この身近で歴史のある魚を通して、多くの人に水環境の昔と今、そしてこれからを知ってもらう。それが金魚展の目的。
・・・・・・でも、なんで売り上げノルマがあるんだろう? 金魚展じゃなくて金魚店?
 
「どうです奥さん、この中国金魚。大陸風に睡蓮鉢で飼育ってもの良いじゃないですか。金魚鉢とは違う、上品さってのが在る、ほら奥さんみたいに」
 
ちょっとばかり、実演販売員と解説員の微妙な違いを間違えた気もするが、お客さんの反応は良い。
オリエンタルな雅に感動し、家庭での飼育方法を訊ねるお客さん続出。
うし、もう一押しして、金魚も買ってもらおう。もちろん飼育キット付でだ。
 
「金魚は赤いのに何ゆえ”金”魚と言うか、知ってますそこの奥さん、じゃ無かったお姉さん? 実は金魚は中国原産で、昔の中国の金は赤みをおびてるんですよ」

さらに畳み掛けるように、金魚が風水的に金運上昇のパワーがある事を、みのさんのテイストにアピール。
この段階になると、もはや“水環境の昔と今、そしてこれから“はドコへいったのかわからなくなってくる。
 
けど、外がスコールじみた急な雷雨となると、中国金魚に変化。
水面近くで背面泳ぎ。おお、さすが中国。金魚も雑技団じこみか?
・・・違う違う、気圧が一気に下がったから、水中の溶存酸素が急激に低下、窒息してんだ窒息。
客に気付かれたら不味い。
水族館で金魚が窒息なんて恥かしい。いやそれより、金魚の売上が落ちる。
仲間の解説員の一人が、慌てて酸素ボンベとO2ストーンを取りに駆け出す。
が、お客さんの一人が気付いてしまった。
 
「あれ?。この金魚、ひっくり帰ってますけど」
 
どうするよ?、何て答えるんだ・・・あっ
 
「中国の金魚は時々、こうやって泳ぐんですよ。あはは~」
 
・・・ウソじゃないよね。








○月 (T▽T)日 晴れ

『女王様、痛いです』
 


渓流の女王とも呼ばれるヤマメ。
その美しい姿態と、釣った時の快感。
食べれば旨く、見る分にも躍動が素晴らしい。
けど、
 
「やだやだ、絶対にやだぁ~。アタシはやらないからね」
「俺だってやらねぇよ、前も俺がやったんだから、他の奴やれよ」
「なぁ頼む。サメの水槽2回やるから、ヤマメ代りにやって、お願い」
 
研修員達からは、水槽掃除をスッゲー嫌われている。
理由は簡単、水温が低い。
渓流に棲む魚なものだから、12℃・・・うちらのドライスーツじゃ、全然防げません。冷たいんじゃなくて、痛いんです。
哀れにも担当になってしまった奴。水に入るなり悶えてる、悶えてる。
 
「支援を、支援をぉぉぉ!!」
 
意味は解らんが、気持ちはわかるなぁ。








○月 ××日 雨

『ビタワ○』


 
ホシガメ様の寝床のお掃除。
・・・なんで様付けなのかと言うと、
 
「保護飼育してるホシガメだけど、一匹14万~20万円するから気を付けて扱えよ」
 
と、堀部学芸員の忠告。
20万、20万すよっ、奥さん!!しかも20万が、総勢16匹も飼育されているんすよ。・・・一匹くらいいなくなっても・・・
 
「持ち出して売ろうとするなよ。条件付で国内の取引がOKとは言え、ワシントン条約に引っかかった生き物だしな。関東の盗品ペットは関西へ、関西の盗品ペットは関東へ、ブローカーが仕切ってサバいてるから、素人じゃ金に返られないよ」
 
ワ、ワシントン条約っ!!
けど、お食べになってる餌は『ビタ○ン』。 カメなのに『ビ○ワン』。
家で飼ってる犬(雑種・もと野良犬)と同じだったりする。
 
「意外と粗食?」





○月 G日 曇り(雲の流れが速い)

『犯罪では?』


 
台風接近。
”水”商売という表記もアレだが、水族館は商売柄、水の扱いには慣れている。
館内はもちろん、敷地内の池やペンギンプールだって、台風が来てもへっちゃら。
浸水やら雨漏りやら、排水管からの逆流なんって事はありません。
けれど一ヶ所。公園水路の途中の溜め池。その近くに水が集まってしまう。
 
「溜め池の周りを、土手で区切っちゃってるから、どうしても水がたまるんだよ」
 
と副館長。
なんでも溜め池の底から、けっこうな量の湧水が出ているらしい。そのため溜め池の周囲に、高い土手を盛っている。公園水路への排水には、子供が遊べるように工夫した浅い小川が整備されて、夏場など家族連れの憩いの場になっている。
土手と水路の高低差を生かして、小川の流れは一方通行。水路の汚れた水が逆流することはなく、子供たちは安全な湧き水で遊べる仕組みになっている。
しかし大雨が降ると、土手の外側に雨水が溜まってしまう。そこでポンプとナイロン製の排水ホースを使って、公園水路へ直接流し込む。
 
「で、台風に備えて、土手の外側にポンプを5機ほど投入するんだよ」
「・・・副館長~、増設したポンプ、全部他の施設の電源を使ってんですが」
 
5機のポンプの電源。3機は美術館の外部コンセント。2機は公園の売店の壁のコンセントに繋がってる。
 
「ああ、一ヶ所から電源取ると、ブレーカーが落ちちゃうからね」
「そうじゃなくて、よく許可が下りましたね」
 
両者との対立構造を考えると、許可なんて下りそうにないのだが。
 
「大丈夫だよ。ここら辺はもう直ぐ、水の底に沈んでコードは見えなくなるし、他も忙しくて気付きやしないからね」
 
お゛い。
 
「見付ったら、非常事態を理由にすれば良いし、それでも文句が出たら、館の排水をイジって相手の施設を水浸しに出来る、って言えば、お願いを聞いてくれるよ」
 
盗電 + 脅迫かよ





○月 V日

『かんちょう』


 
台風上陸っ!!。
当たり前だが、台風の日に水族館に来る人は少ない (でも少しはいる。うれしい♪) 。でも飼育員や研修員には、それほど影響はない。 ”解説” の仕事が減ったくらいだ。
だから今日も、透過天井の第1キーパースペースで作業、作業、また作業。
キーパースペースってのは、水槽の ”裏側” の事。
いくつもの水槽が展示されているが、その多くは水面上で、一つの大きな部屋に繋がっている。その部屋がキーパースペース。
同時に複数の水槽を管理する為の工夫だ。
 ”裏側” と言うより ”上側” だろうか?
まぁ、そのキーパースペースでは各水槽の管理だけでなく、貴重種の飼育や実験・観察。稚魚や植物の飼育。餌用の小魚やキンギョ、ザリガニの確保なんかをしている。
 
「なんか、雨がやたら五月蝿いっすね」
「そりゃそうだぁ。透過天井なんてぇ、熱と日光を通すほど薄い、樹脂板なんだからよぅ」
 
大木技師長は、ろ過機を分解しながら説明してくれる。
 
「生き物にとっちゃ、人工光よりもぅ、やっぱり日光の方がいいからなぁ。ガラスじゃ熱が     
 
その時、天井近くのスピーカーから内線。
 
「こちら館長。美術館側より支援要請が入った。増水により人手が欲しいとのこと、作業員各位は現時点をもって作業を中断し、速やかに向かってくれ。繰り返す、作業員各位は    」
 
・・・、あの芸風は、なかなかのもんだね。
 
「館長を艦長って呼んじゃダメでしょうか?」





○月 V2日

『聖なるガンガー』


 
台風直撃!!
 
「ポンプ増やしたのになぁ~」
 
増水
あれほどポンプを増設したとはいえ、水路自体が溢れ出ては意味が無い。朝来て見たら、一晩で水路から水が溢れ出し、駐車場を特大の児童プールに変えてしまっていた。
大人の膝までの水深と、手ごろな深さだが、遊んでいる子供は幸いにしていない。
もっとも駐車場だけに、何台かの車が、ガンジス河の様な泥水にエンジンルームを浸し、静かに沐浴をしていた。
 
「まさに、お釈迦になってるってやつか」
「ガンジス河の沐浴は、ヒンドゥー教よ」
「え、そうだっけ。でもまぁ、神罰下ったってところだな。夜間の駐車はご遠慮願ってんのに、勝手に停めて自滅してんだから」
「そうよね、バカめってところよ、ハハハ」
 
研修員同士で談笑していると、堀部学芸員が、ぬぅっと登場。
いつも時間ギリギリに通勤してくるのに、今日は早い。
顔もお疲れモード。充血ウサウサ、目の下クマクマ。全体にむくんでいて、徹夜明け丸出しだ。
そして一言、
 
「宿直って知ってるか?」
 
え?!
・・・・・・宿直というと、もしかして、・・・。
あ、一際ご利益高そうに、深く沐浴しているロードスター。堀部さんのに似ている気が・・・





○月 SS日

『踊る大包囲網』


 
「こちら館長!、県警より協力要請だ。堀部学芸員は全ての研修員を引き連れ、直ちに出動してくれ。現場は国道○号線沿いの     

またカンチョウの趣味の入った放送がかかり、みんなで出撃。
で、場所は行き成り田園地帯のど真ん中~。パトカーが何台か停まって、ちみっと物々しい雰囲気。
何事か? と思いきや、
 
「ホントだって、ウソじゃないよ。見たんだよこの目で。ガキだからってなめんなよ」
「そうだよ、こうイボイボしてて大っきいの。1mはあったよ。いやもっとあったかも」
 
興奮している小学生。ある生き物の目撃報告を、解りづらい身振り手振りを加えて叫んでる。
一方、警官達は半信半疑。
 
「って、子供達は言ってますが、いるモンなんですか、オオサンショウウオなんて。天然記念物でしょ、あれ」
 
そう、ある生き物とは、オオサンショウウオだ。
堀部さんは、無線の調整をしながら警官たちに、
 
「いいえ、天然記念物じゃないですよ」
「え、確か・・・」
「特別天然記念物ですよ。ついでに言えば、ワシントン条約にも引っかかってますが、たぶんそっちの関係でしょうな」
 
なにやら含みのある返答。
にしても、本当にオオサンショウウオ? 山奥に棲んでるイメージがあるが、ここって海に近い田園地帯。・・・この前の台風で流されたとしても、信憑性が低いなぁ。
どちらにしても、希少動物の保護は水族館のお仕事の一つ。
無線の調整も終ったみたいだし、ほんじゃ捕獲作戦≪メールシュトローム≫開始!!
 
『いたか~?』
『いな~い』
『いないわよ』
『敵機確認できません。索敵続行!!』
 
小学生の目撃地点を中心にして、その周囲200メートルの円形包囲網。その包囲網を、無線で連絡を取りつつ、渦のように螺旋を描き縮めていく。
田んぼの持ち主の農家には、ちゃんと許可も頂いている。それでも、緑の穂を膨らませ始めた稲を踏み倒さないように、慎重に足を運んだ。
それにしても台風の後で、水浸しになった田んぼ。ちとドブ臭い。こんなところにオオサンショウウオがいるのかねぇ~。いる訳ねぇよ、とテキトーに探していたら、
 
「・・・いた。・・・マジでいたぞー!」
『お、いたか。うんじゃ何人かで捕獲してくれ。くれぐれも、ケガに気を付けてな』
 
少し呆気なく発見できて、みんながバシャバシャ集まってくる。
ふむ。相手は特別天然記念物だけに、おケガをさせないように数人がかりっすか。
集まるみんなの出す波にも、オオサンショウウオはのんびり平然。
もしもしオオサンショウウオさん、目、覚めてますか? ってくらいゆっくりと水中歩行。
しかも逃げるそぶりも無い。こちらの事など気にせず、行きたい方向に進んでいるだけ。
流石は癒し系両生類、でっぷりと丸いフォルムが、ゆらゆらと波に揺れている。
同じ両生類でも、近くにいたウシガエルは、慌ててぴょんぴょん飛び跳ねてるってのに、このヒトは全然慌てもしない。
ほらちょうど今、ウシガエルが君を飛び越えて先に逃げていくよ、まったく

その瞬間オオサンショウウオが動いた。

速い。
癒し系両生類なスタイルからは、想像なんて出来ない、残像をまとう程の速度。
飛び跳ねたカエルが頂点に達するよりも前。
自身も高く飛び跳ね、空中にて喰らい付く。
一撃。たった一撃で、ウシガエルを“八割がた”飲み込みんだ。
そう、八割だ。身体のパーセンテージの内、片足の太ももから下を20パーセントとするならば、オオサンショウウオはその部分を残して、ウシガエルを丸呑みにしやがった。
着水したヤツ近くに、ぼとりと、ウシガエルの太い後ろ足が転がる。
水面に浮かぶ後ろ足は、骨も筋繊維も見事なまでの断面を見せている。なのにまだ身体と繋がっているつもりなのか、片足だけで、本当に“片足だけ”になったというのに水面を蹴っている。
獰猛
まさにその一言。
 
もしかして、怪我に気を付けるって・・・、オオサンショウウオに怪我をさせないようにじゃなくて、俺達が怪我しないようにって事ですか?
この惨劇と真実を目の当たりにして、みんなの動きがぴたりと止む。
 
『どうした、誰か噛まれたか? もう一回言うけどケガに気を付けろよ。大きいヤツなら、子供の手くらい食いちぎるからな』
 
・・・・・・マジ?





○月 V2A日

『中国産にご注意』


 
「昨日のオオサンショウウオ、あれ中国産らいわよ」
「え、残留農薬バリバリ ? 」
 
って食わねーよ、あんな物騒な生き物!!
中国にもオオサンショウウオはいるが、日本のとちがって、イボイボがある。それが原産地の見分け方の一つとの事。
 
「じゃあ、飼い主は名乗り出てこないな」
「なんで ? 」
「名乗り出たら、即、逮捕だっての。ワシントン条約違反の密輸モンだぜ」
「しかも日本の川を泳いでいるから、中国に帰れないんだよな。寄生虫とかの関係で」
 
ホシガメさまと一緒で、うちの館で死ぬまで面倒見ることになるのかな、この分だと。
 
「故郷から連れ去られ、帰ることも叶わず、異国の地で孤独に朽ち果てるのか・・・」
 
あんな凶暴な奴だけど、かわいそう・・・だよな。





○月 V2V日

『とら、トラ、虎』



「「「ろ~こっうぅおろっ~しにぃ♪♪」」」
 
俺がサメの水槽を清掃していたら、大阪からの団体客が行き成り歌いだしやがった。
理由簡単。
サメの水槽用のウエットスーツは、黄色と黒の横縞トラ模様。
だからたぶん俺の事を、”仕事着をトラ模様にカスタマイズするくらいの阪神ファン”、とでも思ってんだろう。
そして昨日の阪神×中日戦。中日6点リードで迎えた9回、まさかの連発ホームランで阪神が逆転大勝利。
 
「「「そ~てぇんかけっ~るぅ♪♪」」」
 
・・・気持ちはわかるんだが、大声で歌うのは止めてもらいたい。魚によくないから
 
「「「かっがやくぅわがぁなぞぉ♪♪」」」
 
ええぇい、止めろってコラっ!! ウチの魚が阪神ファンになったらどうしてくれるんだ?!
俺が叫んだところで、こちらは水槽の中。レギュレーター咥えているし、水の中だ、全然あちらに伝わりっこない。
それどころか、俺の反応に対し、何故か陽気に手を振ってきやがった。
 
「「「と~おっしぃはつっ~らつぅ~♪♪」」」
 
てめぇら、二番まで歌いだすんじゃねぇ!!
もう胸糞悪いんで、俺はとっとと水槽からあがった。
 
「ったく!!。何で歌いだすかな、俺の前で」
 
少し荒れる俺に、仲間達は、
 
「何荒れてんの、しょうがないって。たぶん君の事を、熱烈な阪神ファンだと思ったのよ。もしくは、阪神勝利を祝ってのサービスとか」
「そうそう。お客さんは知らないんだから、黄色と黒なのは単にサメ避けのカラーリング、って事」
 
色々なだめるが、お客はもちろん皆も知らない事が、もう一つだけある。
 
「俺、中日ファンなんだよ」





○月 ◇日
 『白い新兵器』


 
「落ちろ、落ちろ、落ちろーーーーーっ!!」
「くそ、こっちもダメだ。何でだ、何でなんだ!!」
「も、もう無理だ、俺は逃げるぞ」
「逃げるな!、何としても落すんだ。・・・全部は無理でも、せめて、せめて、お客から見える範囲の藻は落としてけ」
 
何やら気迫のこもった叫びが木霊するが、要はお掃除中です。
水族館の水槽の汚れで手強いのは、ミネラル分と藻。
藻ってのは御理解いただけると思う。一般の水槽でも見かけるもんね。
ミネラル分てのは、淡水でも無くは無いのだが、海水だとやたらと析出しやすい。
南洋の天然海水だろうと人工海水だろうと、ミネラル分は豊富。それが白く析出して、壁やガラス、アクリル面にこびり付くんだ。
大概の壁は、力任せにタワシやブラシをかければすむのだが・・・、問題はガラスとアクリル面。下手に力を込めてはキズが付いちまう。
完全な水中だったら、専用のポリッシャーとやわらかい研磨布で何とかなるのだけれど、
空気中や細かい箇所なんかは、どうしても手作業なんです。スポンジと片手に、力加減に注意しながらフキフキと。

「おぉいお前ら、これでも使ってみろぅ。新兵器だぞぅ」
 
そこへ大木技師長の登場。手には見慣れない白いスポンジ。
白い新兵器・・・何かの符号が重なる。
そして、
 
「おおお、落ちる。落ちるぞこれっ!!」
「なんて威力だ、この白い新兵器はバケモノか。藻だけでなくミネラルも落としていくぞ」
「しかも、傷がついてないよ、ほら。アクリル面を擦っても、傷がついていないんだよ」
 
いったい何なんだ、この白い新兵器は。
NASAの新素材か、それとも技師長の手作りかか?
 
「これだよぅ、よく落んだぁ」
 
技師長が取り出したのは・・・『茶渋のおちるスポンジ(お徳用)』
え?、お徳用・・・、一般の台所用品?。
しかもよく見れば、百円ショップの品物。
百円ショップってすげぇ。
けど、こんな物で水槽掃除している水族館も、ある意味すげぇ。






○月 □日 

『同業者』


 
真夏の炎天下、館の庭園部分で土木工事。
溜め池の土手の周りに、もう一つ池を作る計画。小川の付近はちゃんと残しつつ、段々畑っぽい田んぼを再現した池にするとの事。
春は田植え、夏はホタルやトンボ観察、秋には稲刈りと、入館者参加型の企画に使う予定。
いわゆるビオトープってやつです。
工事はかなり大掛かり。人力だけでは足りないので、県の土木課からショベルカーを一台借りたりしてます。副館長が取り扱い説明書読みながら操作しているのが、ちょっと恐いです。
直射日光浴びての作業でーすw。あははっ汗だらだらでーすw。水族館だってのに脱水症状でーすw。(何で笑ってるんだろ私? 自分でも解らない)
学芸員と聞くと、とっても”インテリ”とか”アカデミック”な幻想を抱く人がいるらしいけど、同じ学芸員でもいろいろあるよ。
かたや、タイトスカートのスーツをパリッと着こなし、そこいらのOLではかもし出せない、知的専門職な雰囲気を纏った人。
かたや、上だけ脱いだ作業つなぎを袖で腰に縛りつけ、建築現場のおっちゃんと変わりない、肉体労働者な汗を流している私。
 
「はぁ~~~ぁ」
 
私が思わず吐いた溜息に、

「なによ、陣中見舞いにアイスコーヒー持ってきてあげたのに、嫌そうな顔をして。要らないならいいわよ、もう」
「そ、そう言う意味じゃないですよ高橋さん」
 
隣の美術館の高橋女史に、訂正というか弁解。
 
「ただ、ウチらは”研修”って付くけど、学芸員でも違いがあるな~、って痛感してたんですよ。高橋さんは上品っていうか落着きっていうか。あ、頂きますねコーヒー」
 
お盆に乗ったグラス入りの、よく冷えたアイスコーヒー。しかも人数分、クリープ付き。
そこからして違うわ。ウチらの場合、2リットルのペットボトル入りの水を奪い合って飲むって言うのに。
 
「ああ、どうせ私はオバサン臭いっていうんでしょ。これでも24なのよ」
「だからそうじゃなく―――――」
 
クリープとガムシロップをたっぷり入れたコーヒー。それを飲みながら、更なる訂正と弁解をしようとしたんだけど・・・
 
「もう何なのよ、信じられないくらい不味そうな顔して、失礼ね」
「・・・・・・すみません。不味いんじゃないんです、汗かき過ぎて味覚が消えてたんです。・・・・」
 
”同業者とは思えない程”違いがある。
と、言いたかったんだけど、いえなくなった。だって、それ以上の違いが何かある、って確信したんだもん。
何て言うのかな、人間として扱われ方に違いがあるような・・・・・
 
 
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