ライ麦狼の寝床

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Ragnarok Online SideStory「ペットイーター」 後編

DATE: 2006. 10. 02 CATEGORY: 小説
何故切れたはずの『―速度増加―』が、再びプリーストに宿った。
そのトリックをサララは見抜いていた。
それは単純なトリック。
『―速度増加―』が一瞬で掛けなおされたのではない。そもそも効果は時間切れになっていなかったのだ。
加護の効果時間がどれくらいかなどは、時計で測るのではなく体で覚えるものだ。
特別なことではない。駆け出しのアコライトだって、誰から言われること無く身に着ける。
スキルとは別の、聖職者の感覚的な必須技能。支援に特化した聖職者など、複数のパーティーメンバーに複数の加護を施し、そのすべての加護のタイミングを把握。よどみの無い支援を展開してみせる。
その体内時計で計測した加護の残り時間が僅かとなった時、この異端審問官は粗雑なトリックを仕掛けた。
ガルデンが、『―速度増加―』の時間切れを狙っていることは分かりきっていた。ならばそれを逆手に取ろうと、故意にロングメイスを失速して見せた。
予想以上な素直さで引っかかったガルデン。失速したのはロングメイスの振速のみで、ステップは高速のままだったというのに。



「マスター、マス、マスター、マスターマスター、マスター」
ガルデンへ呼び掛け、サララは彼のもとへ駆け寄ろうとする。だがまともに立ち上がることも出来ず、石畳に顔面から倒れこんでしまう。
それでも、腕を伸ばし這い進む。ガルデンのもとへと這い進む。
異端審問官に殴られた時に吐き出した唾液は、彼女の手と服をべったりと濡らしている。
一歩もしくは一手進み度に、サララの手と服が田舎の肥沃な土壌とは違う、路地のすえた泥と砂埃に黒く汚れていく。
そんなことかまっていられない。口の中に砂礫が混じっても、歯を食い縛って腕を伸ばす。ざらついた石畳を掴み、前へ体を引き摺り寄せる。
懸命に這い進むサララを一瞥した異端審問官。まるで見せ付けるかの様に、ゆっくりとロングメイスを大きく振りかぶる。気付けば、本当に『―速度増加―』は切れていた。
振りかぶったロングメイスの標的は、這い進むサララではない。意識を失い横たわるガルデンに目掛け、振り下ろされようとしている。

「やめろ、やめてくれ。何ゆえこれ以上マスターを攻撃する必要がある。これ以上やったら、マスターが、マスターが死んでしまう。やめてくれ」
「この聖騎士は、殺しでもしなければまた起き上がりそうでな。なぁに殺してしまっても教団としてはかまわない。
もともとが行き過ぎた原理主義の演出が目的だ、ペットイーターの所業が悪辣になるならば、飼い主の殺害とてかまわぬ」
「やめ、やめろ。やめなければ許さぬぞ」
「どう、許さないというのだ。黙って見ていろ」

立ち上がる体力も、詠唱する魔力も尽きたサララは何も出来ない。ただ振り下ろされる鈍器を眺めるだけなのか・・・・・・。
嫌だ。
半狂乱になりながら、がむしゃらに腕を伸ばすサララ。指先が何か石畳とは違うものに触れても、それが何なのか確かめることも無く本能的に掴み、更に前へ腕を伸ばす。
だが、間に合うことはない。
無機質な鈍器は振りおろ ――――――

「や、やめ―――― 」
「ご主人様をいじめるなー!!」

その瞬間、ササラの背後からかん高い叫びが上がる。黒い影が飛び出した。
ムナックだ。
着崩れた衣服もそのままに、ただガルデンを守りたい一身で、異端審問官に向かっていく。
ペット化された時に闘争本能は消されたし、ムナック特有の、小刻みに上下のステップを踏む体術なんて忘れてしまっている。
それでも小さな手に握り締め、前のめりに重心を落とす。低く、低く、全力疾走で踊りかかる。どこか異端審問官のタックルに似た動きで、踏み込んでくる。
無謀にも踏み込んでくる。
とうの異端審問官は、動じることなくロングメイスを構えなおした。
当然だ。もとより彼女を潰すことが任務なのだから。いかに無残に潰すか、いかに狂気を演出するか。そういう仕事なのだから、動じる訳がない。
まして一次職でも対応できるような魔物など、このプリーストにとって脅威ではない。余裕をもって破壊の準備が整う。

「やめろーーーーーー!!」

ムナックとプリーストがぶつかる直前、今度はサララが叫びをあげた。同時に、先程掴んだ何かをプリーストへ目掛け投げつけた。
対人特化のメイス。
異端審問官自身がガルデンとの一合の後、投げ捨てた武器だ。凶悪な加護と過剰精錬の施された、その鉄の塊は頼りない軌跡を描き、――――届いた。
二つの鈍器がぶつかり、ロングメイスの軌道が僅かにずれる。ムナックの首から上を路上に撒き散らす予定だった鉄塊は、標的をかすめムナック帽子を大きく舞いあげた。

「なっ、そんなバ――――」
「あがぁぁぁぁあああっ」

帽子が舞い上がり、ムナックの素顔がさらされた瞬間に、突如として刹那の間が生じた。
それは拳一個分の間だ。
ムナックが拳を放つ。身長差と低姿勢から可能になる、真下から昇るようなアッパー。狙うは顎というより、喉元に一撃。
入った。
小さな拳が、屈強な体躯の喉に打ち込まれた。
ゆっくりと、ゆっくりとプリーストの身体が後ろへ倒れて行く。脱力した背中が、石畳に平行になる動きで無防備に倒れこんでゆく。
仮面の巨躯が沈むのを見届けるよりも先に、ムナック自身も事切れたようによろめきだす。千鳥足を踏みつつも、何とか体制を立て直そうとするが、それも叶わずついにはサララを押しつぶすように転倒。
自力で立つことも出来ないのに、ムナックは得意そうな笑顔でサララに宣言する。

「やりました。貴方が何も出来なかったアイツを倒して、私がご主人様を守りました。私の勝ちです」
「・・・・・・・・・ああ、そうだな。そなたの勝ちだ」

サララは何も言わず、ムナックの勝利宣言を肯定する。彼女が投げたメイスが無ければ、今頃ムナックには二度目の死が訪れていただろう。だがそんなこと、どうでもよかった。
大好きな人を守れた達成感に満ちた、ムナックの笑顔が見れたのだから、そんな事どうでもよかった。きっと、ガルデンが守りたかったのはこの笑顔なのだろう。
そういえば、ムナックの素顔を見たのはコレが始めてだと、今更気が付く。ムナック帽子とそれに付随するお札は、顔の上中下とほぼ全てを隠してしまう。
よく見ればまだまだ子供の面影を残す、12~15才くらいの顔立ち。フェイヨン系民族の特徴の、アーモンド形の二重の目と小さい鼻。それが満面の笑みに輝いていた。
もしかしたら、はじめこのムナックに抱いた醜い嫉妬も、顔が見えないから増大したのかもしれない。
・・・・・・いや、それはあくまで願望だろう。自分はああいった醜い感情を抱く人間なのだと自覚するべきだ。自覚した上で制御してゆかねばならない。
そして、嫉妬を抱くほど、ガルデンへの思いがあるのだと痛感。

「何だかんだ悩んだところで、やはり好きなのだな」
「はい? 何ですか、よく聴こえなかったんですが?」
「いやなんでもない。それより退いてくれぬか、重い重くないに関わらず、体制として辛いものがあるぞ」
「いや、あははは、それが、足が震えて立てません。今になって怖くて、足も手も、震えちゃってるんです。にゃははは、力が全然はいりません」

なんとも可愛らしいと感じてしまう。サララは思わず笑みがこぼし、そっとムナックを抱きしめる。

「へっ? え、ぇ?」
「なら、このままじっとしていろ」
「ちょっと、あの・・・はい、じっとしてます。何か、こういうの、良いですね・・・・・・・・・・・・ってああーー、まって、放してください。早く、ああー大変ですよ、あーー、あいつが。早く放して」
「ん?・・・どうした・・・・・・・・何っ、あの化け物め」

サララも、それに気付く。
ムナックの一撃で沈んだはずのプリーストが、静かにたたずんでいた。プロンテラの路地裏の、星の見えない四角く切り取られた夜空を背負い、石畳に転がったサララ達を仮面が見下ろす。
近づいてくる。
ゆっくりと近づいてくる。
ブーツの内側を路面に擦り付ける様に、血まみれの右足を引き摺り、ゆっくりと近づいてくる。どうしようもない恐怖が、ゆっくりと近づいてくる。
その手に鈍器はなく。躊躇うように、こちらに差し出してくる。身体ごと近づきながら、二度、三度と手を引き戻す姿に、戦闘の意思は見られない。むしろプリーストのほうが警戒している。
何を警戒しているというのだ。
サララは、逃げ出すことも出来ない。立ち上がることも出来ない。ただ緊張だけが質量を増し加速していく。それでも、体は自然と腕の中のムナックを守るように抱きかかえていた。
鉄鋲の打たれたブーツと粗い路面が発するザラついた音の他に、かすかに何かが聞こえてきた。
それはプリーストが力なくこぼす呟き。

「レ・・・、鈴竜(レイロン)、・・・鈴竜なのか・・・」

レイロン? いったい何のことだ?――――わからない。
サララには解らなくとも、ムナックは目を見開く。
恐る恐る視線をプリーストへと向け、次いで顔を向ける。
その瞬間、プリーストは無理に大きく前へ出ようとした。もともと不安定だった重心が、完全にぐずれる。
転倒。そして強打。
受身も取らず左肩から倒れこんだ。左腕は身体の下敷きになったが、右腕はこちらへ――――ムナックを求め伸ばされていた。

「間違いない鈴龍だ。鈴龍、俺だ判るか? 牙龍(ヤンロン)だ、俺だ、判らないのか」

このプリーストは、生前のムナックを知っているとでも言うのか。もしや、二人の関係は・・・・・・・・・、
まさか、そんな事がありえるものか。どうせ、遂にこの男は、ガルデンやムナックの攻撃のダメージが脳にまで達し――――

「・・・・・・・・・ほ、お兄ちゃん?」

“もしや” や “まさか” 、“どうせ” と、サララが否定しようとしたモノを、ムナックが一言で肯定してしまった。

「鈴龍っ。ああ俺だ、お兄ちゃんだ。」

ムナックの問いに応えたプリーストが、仮面を剥ぎ取る。現れたのは、あれだけの戦闘をこなす猛者とは思えない、以外にも中世的な顔。
そのつくりはムナックと、瓜二つではないが、あまりにも似ていた。そして微かにだが、ガルデンにも似ていた。
死別した兄妹の再会。それは“もしや” でも “まさか” でもなく、目の前で起きていた。
かたやプロンテラ教団の尖兵として、かたや黄泉帰りし不死者として。別離の後道のりは、あまりにも違う二人。互いにどう切り出せば解らない。
兄は身動きもとれず、転倒した位置から前へ進むことが出来ない
妹は涙でにじんだ視線を、目の前の兄と、少し離れた所で倒れている現在の飼い主との間を、何度も行き来させる。
そして、

「知らない」

再会した兄を、拒絶を示した。

「な、何を、今、俺のことを・・・」
「知らない知らない知らない、知らない。ご主人様を、ご主人様をあんなふうにする人なんて、お兄ちゃんなんて知らない」

ムナック ―― 鈴龍は牙龍から目をそらし、サララにしがみ付いてくる。
それは絶望に放心している兄から見れば、完全な拒絶のように見えてしまうだろう。だが、しがみ付かれているサララには判る。・・・・・・・・・判ってしまう。
知らない、とつぶやき続ける鈴龍だが、それは直ぐに涙と嗚咽に取って代わられ、最後にはろくな発音もできなくなってきた。只々しがみ付き声を殺して泣くだけになった頃、サララは耳元で囁きかけた。

「安心しろ。そなたが兄の事を思い出しても、マスターへの想いは嘘にはなったりはせぬ。マスターは言ったのだろ、守ってやる、と」

鈴龍の嗚咽が止まり、サララの顔を見上げてくる。

「仮にそなたが、マスターに兄の面影を重ねていたとしても、死者になろうとも兄のいるアルベルタに行きたいと思い続けても、
あんなマスターだ、惚れてしまうような恥ずかしい台詞や行動を平気でやらかして、その実マスター自身は気付いていない、そんなところだろ」
「ん、ぅ、うん、ん」

言葉につまりながら鈴龍はうなずく。
サララは彼女の頭をなでてやる。懐から出したレースのハンカチで、その涙をぬぐってやる。そんなことが自然と出来てしまう。それくらいムナックの気持ちがわかるのだ。
なぜなら、

「なら問題ない、そなたのマスターへの思いは本当のものだ、嘘なんかにはならない。そのなんだ、同じくマスターの事がす、好きな私が言うのだ。間違いないぞ」

言った途端に、サララの顔が真っ赤に火照る。頬といわずうなじや指先まで赤く染まりだす。
大きな瞳で見つめ返してくる鈴龍を見ることなんで出来ない。あさっての方向に顔を向けた。
何か場違いな事を言ってしまったのでは? と不安が駆け上ってくる。じっとり湧き出した汗を、今度はハンカチを自分に使ってぬぐっていく。
よっぽど動転しているのか、「こんな派手なレースのハンカチなど持っていたか?・・・も、もしやコレは」などと、まったく関係ない考えがよぎっていると、

「ありがとう、・・・・・・サララさん」

鈴龍が短く感謝の言葉を発した。いや、初めてサララの事を名前で呼んでくれた。

「そうか。なら私なんかではなく、バカ兄貴に抱きついて来い・・・・・・鈴龍」
「うん」

もう震えることの無い足で立ち上がり、鈴龍は歩き出す。たとえ足元がぐらつくとも、死後も求め続けた温もりが目の前にいる。
やっと出会えた兄がいる。だから倒れかけたなら、そのまま兄の広い胸に飛び込めば良い。ぶつかっても、押しつぶしたって許してくれる。だって、お兄ちゃんなのだから。
牙龍もかまわなかった。倒れこんでくる妹を受け止めようと、ろくに動かない身体を起こし、血まみれの右足で膝立ちになる。
それでも、文字通り倒れこむ鈴龍を受け止めることは出来ず、二人とも転がるように抱き合った。無駄なことは何も言わず、ただ兄妹は抱き合う。
何年もの間止まったままだった時間と、何年もの間懸命にもがき続けた時間が、いっしょに動き出した。これで漸く終ったのだ。
そう思うとサララは、ガラにも無く目尻が熱く潤んでしまう。
良かった、そう思えるだけなのに。単に、昏倒しているガルデンも含めて、この場の皆が一番素直な気持ちになっただけなのに、どうしようもなく涙が込上げてしまう。




「で、いつになったらその魔物を潰すんだい?」

大型獣を思わす深く響くヴァリトンが、路地に木霊する。不機嫌なグリズリーが人語を話したら、こんな感じになるのだろうか。

「だから、いつになったらそいつを潰すんだっ? てんだよ」

声のする方を振り返れば、路地の一角に一人の男ロードナイト。壁に寄りかかり腕を組む姿は、それだけで野獣の様な存在感を放っている。
彼が声の主で間違いないだろう。歳の頃は20代後半。無骨な装甲は使い込まれ、腰には禍々しい妖刀―――村雨―――を引っさげている。
その彼の背後では、完全武装のナイトが数人、それともう一人のロードナイトが、サララに倒されたプリースト達を荷物でも扱うように、氷の残骸から乱暴に運び出している
思わずサララは呟いた

「・・・プロンテラ騎士団?」
「おおよ、プロンテラ騎士団タロット中隊、タワー小隊だ。俺はデューマってもんだ。宜しくたのんまぁ、お嬢ちゃん」

組んだ腕を解くことなく、デューマというロードナイトは答えた。そして、

「何度も言うが、いつになったらそこの坊さんは、その魔物を潰すんだよ。教団の手はず通りな」
「な、何を言っているのだ。そなたこの二人が、今やっと出会えた事をわかっているであろう」
「わかっているさ、そんくらいな」

三度目にして漸く、言葉の意味する事を理解できた。
このロードナイトは、牙龍にその手で、奇跡的に再会できた妹に二回目の死を与えろと言っているのだ。
不遇の死をとげた家族と同じ悲劇を繰り返したくない、そのために教団に入った兄に、目の前の妹を殺せといっているのだ。
そんなことを、
そんなことを、・・・・・・・・・サララは認められない。

「そんなことを、出来るものか!! そなた、これ以上この兄妹を追いやって、何になるというのだ」
「じゃあどうするてんだい。今運んでるクソみてぇなバカ共は、明日の朝にはきれいさっぱり釈放だぜ。無頼の冒険者のプリーストと、教団の正規の出家神官は訳が違うんだ」
「なぜ釈放なのだ。現にヤツラは、鈴龍を襲いに来たであろう。ペットイーターの罪状で立件可能ではないか」
「証拠がねぇんだよ。死体がねぇんだよ。ついでに冒険者の発言権はゼロに等しぃんだよ。嬢ちゃん、あんたが何と言おうが、やつらが「酔った冒険者に絡まれた」と言えば、そうなっちまうんだよ」

鈴龍の死体がない以上、“異端審問官たちがムナックである彼女を狙っていた“、とは立証できない。現行犯逮捕、それが立件する条件だというのだ。・・・しかもそれは、器物破損としてだ。
ならば、ガルデンと牙龍によるおとり捜査であることを公開すれば、・・・・・・・それでは意味がない。

「解ってんだろ、仮に全部教団上層部の筋書きだったとゲロしても、教団内部の内ゲバを解決するどころか、煽るだけだってのは。まぁ俺はそれでもかまわねぇがな」

外部勢力に助力を頼んでまでのおとり捜査。そんな事をした上層部と、好戦的な若手や原理主義勢力との、決定的な対立を生み出すだけだ。
教団が内側から、その組織としての機能を失ってしまったならば、牙龍が望む福祉活動なんて、まともに行えなくなる。
今回はおとり捜査などではなく、うっかりペットイーターが露見した事にしなければならない。
鈴龍が出来る限り残忍に殺され、その場に偶然デューマ達が駆けつける。そんなシナリオでなければならないのだ。

「オトし所って言うのなら、そこの坊さんは、オトし所を選べるほど手はきれいなんかい?」

牙龍が震えてこちら見る。まるで彼さえも、無力なキューペットになってしまったかのように、デューマの言葉と視線に心から怯えている。
彼の怯えるさまが、デューマには余程不愉快だったようだ。傷ついた武僧へさらに不機嫌な声で、金属のように冷たく緩衝の無い言葉を叩きつける。

「今まで何体のペットや、時にはその飼い主も潰してきたんだ?  いや、教団の使命って事で、要人暗殺ってやつもしてんじゃねえのか、え?」
「やめろ。あの者とて、望んだ訳ではなく、使命として仕方なく―――――」
「仕方が無かったら、今まで殺された連中はどうするんだ。今回は標的が実は妹でした、だから殺しません、それが許されるような人間か、あん、おい坊さん、あんたはそんな人間か?」

デューマの言葉に、もはや牙龍は太刀打ちできない。
今までに残してきた血とドブ泥にまみれた足跡を、再会したばかりの妹にぶちまけられる恐怖。
その足跡がたどる道の先には、妹さえも路傍のゴミとして踏み越えねば進めないという恐怖。
そして何より、今にも妹が、自分のために自己犠牲を申し出るのではないかという恐怖。
ただ恐怖に震えることでしか出来ない兄。妹を強く想うあまり、何もしてやれることが出来ない。
一方の妹もまた兄を強く想う。だからこそ、兄が最も恐れる自己犠牲の選択肢を選ぼうとする。兄と同じく、ガタガタと身体も声も震えながら、

「お兄ちゃん、私は大丈夫だから。お兄ちゃんに会えたし、好きな人に守ってもらえたし、サララさんにも認めてもらえたから。ね、私はもう大丈夫だから」
「鈴龍、そんな無理だ、俺には無理だ、俺には」
「大丈夫だから。だから泣かないで、こんど生まれ変われたら、―――――」

あの夕立の中でソヒーを潰した光景がフラッシュバックを起こす。
“―――だ・か・ら・な・か・な・い・で。・こ・ん・ど・ま・た・う・ま・れ・か・――――” 
激しい雨が身体を打つ感覚が、華奢な頭蓋骨を砕く手応えが、粘つく血と温かな脂肪片の感触が、発せられなかった声が、目の前の妹と交じり合い明滅を巻き起こした。
まるで、あの時既に自分は、妹を手にかけてしまったような錯覚におちいる。
助けを求めるのが見知らぬソヒーではなく、妹であるムナックに描き変えられた映像。その妹に自分は、何度も、何度も、数えるのがバカらしいくらいの回数、メイスを叩き付け・・・・・・・・・

「・・・・・・・・・ 関係ないっ!!関係ないであろう、そんなことはっ!!」

サララが上げた叫びが、牙龍の混乱を一蹴に断ち切った。
別に彼に向けられた言葉ではない。それはデューマへ向けられた、抵抗と否定の意思。
その言葉は、ガルデンの視線に似ていた。虚ろな脚で立ち上がりながらも牙龍を正面捉え、絶対に曲げない意志の込められた、あの時の視線と同じ響きがあった。

「おいおい嬢ちゃん、そいつの罪は全部チャラになるって言うのかい?」
「だから関係ないと言っている。このバカ兄貴の過去に何があろうとも、教団がどんなに薄汚い場所でも、あのコには関係ないであろう。
鈴龍は何もしていない。やっと出会えた兄に、殺されなければならない事なんてしてはいない。何で鈴龍が、また死ななければならないのだ。あのコが死んでいいはずがないっ!!」

選ぶ側の手が血に汚れていたら、選ばれる側もその制約を受けなければならないのか?
違う。
そもそも牙龍が選ぶ側で、鈴龍が選ばれる側という決まりなんて無い。鈴龍が何を望むかという事だ。
彼女が助けを望んだならば、ガルデンでもサララでも、そして牙龍でも、誰が助けだしてもかまわない。
逆に自分の手が血に汚れているからと、助けを求めた彼女の手を打ち払って良い者などいないのだ。

「守ったり助けたりする権利が無い。そんなことは、守られる側助けられる側に関係ない。このコがまた殺されて良い理由なんて、何処にもないであろう」

陳腐で甘いことは百も承知。それでも、間違ってはいない事だけは確かな事実。誰も鈴龍を政治の生贄にしても良い奴なんていない。
その事に気付けるからこそ、サララの訴えの前に、誰もが身動きを取れない。今まで余裕を見せていたデューマでさえもだ。
あれほど不機嫌だった顔を、鳩が豆鉄砲を食らったようにしている。グリズリーから一転、ティディベアを連想するほどに、きょとんとしている。
が、一転。どこか含み笑いをおびた、現在進行中の悪戯が楽しくて仕方が無い少年の様な顔になる。

「なかなか吠えるねぇ。嬢ちゃん、じゃあオトし所が他にあるって言うのかい。もしねぇってんだったら、俺が―――― 」
「ある。婦女暴行だ」
「・・・はぁ~~???   おい、おいおいおい、嬢ちゃんもう一回言ってくれないか。俺の耳がおかしくなければ、今アンタは婦女暴行って言ってるんだが・・・・・・」

悪戯小僧の顔が再びテディベアに戻っている。意外とこのデューマという男、表情豊だ。

「だから婦女暴行だ、こんなセリフを何度も言わせるでない。つまりバカ兄貴の罪状を婦女暴行にすれば良い。
嫌な言い方だが、教団としては獣姦の扱いになるかも知れぬがな」
「つまり嬢ちゃん、あの着衣の乱れたムナックが、異端審問官にヤられた・・・という事か。いくら現行犯逮捕にでっち上げるとはいえ、物証もねえじゃなあ」
「物証もある。おいバカ兄貴、仮面の代わりに “これ“ を被れ」

サララは傷ついた身体を起こし、手にしていたハンカチを牙龍に投げつける。
涙や汗を吸い湿ったレースの布切れ。乾いた布よりは、それなりな軌道を描き、牙龍の手元に届いた。
が、・・・牙龍は右手キャッチした瞬間からおかしな感触に気が付く。
ハンカチなのに、何故かゴムが内側に縫い付けてある。不思議に思いながら、妹から左手も放し、そのハンカチを広げてみた。
ひどく斬新なハンカチだった。
デザインは黒地にバラが描かれ、全体が透けたつくりになっている。そして何より、鋭角二等辺三角形と鈍角二等辺三角形を合わせた三次元構造を持ち、連結部にはアジャスターまで備えている。
そう、まるで女性物の下着のようなハンカチだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・明らかに下着だ。しかも、かなり勝負用な下着だ。
それもそのはず、今までハンカチかと思っていた物は、夕方にルファが選び、サララが誤って万引きしてしまった下着なのだから。
沈黙
先程のサララの訴えとは、別の系統の静寂が、しばしあたりを支配する。
サララ以外の者は、この下着がルファのセレクションによるものだと知る由もない。ゆえに、皆がそれぞれの思惑の篭った支線をサララに向ける。
沈黙を破ったのは、初心な娘の様に頬を朱に染めた、牙龍の問いだった。

「・・・・・・か、かぶれというのかコレを? その何だ、・・・お前は、かまわないのか、ほらアレだ、なあ?」
「黙れっ!!、未使用だ。それから未使用だと判って微妙に残念がるでないっ!!」
「なあ嬢ちゃん。俺らはそこ坊さんと違って、未使用でも使用済みでもどうでもいいが、どうしてそいつが物証になるってんだ?」
「いいか私は真面目に発言するぞ。その、・・・・・・・・・・・・はいてない・・・のだ」
「いや、嬢ちゃんのはいてない趣味は関係なくてな、物証が―――――― 」
「私ではないっ!!。あのコだ、鈴龍がはいてないのだ」

指摘された鈴龍本人は、いっさい慌てることなく、

「はい、ブラとかパンツって窮屈で、はいていませんよ。たぶん、死ぬ前からはいてなかったと思いますが」

さらりと問題発言をかましやがった。
あまりの発言に指摘したサララさえも絶句する。
異端審問官が現れる前にやりあった、妙な取っ組み合いの時に気が付いたのだが、まさか生前からノーパンノーブラだったとは思いもしなかった。
てっきり埋葬かムナックとなった時のどちらかで、はかなかったのかと思っていたのだが・・・。ブラしないほうが大きく育つのか・・・
フェイヨン地方の文化なのか、それとも貧困にあえぐ寒村では、年頃の娘に下着をそろえるのも困難だったのか、ともあれ、

「説明しなおすぞ、よいな。着衣が乱れ下着をはいていないムナックと、傷つき倒れた飼い主。
そして、湿った下着をかぶった異端審問官。これがそろえば婦女暴行も立件できるではないのか」

あんまりと言えばあんまりなサララの作戦に、流石のデューマも判断しかねている。
すると副官らしきロードナイトが、背後からデューマに進言してきた。大型の野獣を思わすデューマとは対照的に、剣や甲冑よりもワイングラスとフォーマルスーツが似合いそうな、貴族のような優男。

「よろしいではありませんか隊長、被疑者の異常性を演出できるならば、我々騎士団もクライアントである教団上層部も、何も問題はありません。むしろ―――」

“むしろ“の後に副官は区切りを入れて、言葉の先に毒をたっぷり塗り込んだ口調に変える。

「何処かのSTR特化な誰かが演じようされていた、手の込んだ小道具を使った三文芝居より、よっぽどマシかと思いますが」
「チッ、うっせーんだよゼロ=ハル、とっととクソバカ共を運んどけ」
「ええ、被疑者3名を確保。護送準備整いましたので、従卒1名を残しこれより先に帰等したいと思います。手はず通り雑居房に拘留しておきますよ。でどうしますか?」
「ああ分かった分かった」

何故かばつが悪そうなデューマ。副官を振り返ることなく返答した。

「それは、我々の帰等許可が下りたという事ですか、それとも別の意味も含みますか? 本官はINTが少ないので、具体的に言って下さらないと分からないもので」

慇懃無礼な副官は、再度言葉に滴るような毒を塗りこむ。視線は、質問しながらも親ネコが仔ネコをあしらう時の様な視線だ。およそ上官に向けるものでは無い。もしかしたら、隊長と副官というのは肩書きだけで、本人達自身はあまり上下関係がないのだろうか?

「両方だ、両方。クソバカ共は運んどけ、それと嬢ちゃんの案は採用だよ。これで文句ねぇだろ、あん」

ふくれっ面になったデューマのこの発言が、やっと訪れたガルデンとサララの勝利だ。ガルデンが守りたかったものを、守りきれた瞬間だった。
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