ライ麦狼の寝床

このブログはフィクションであり、実在の (以下略

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「同じ空の下で」   □ 7 □

DATE: 2006. 05. 21 CATEGORY: 小説
02/07/04(木)
 

 昨日は、完全オチた氷川が復活するまでの間を使って、蓮田嬢にも事情を解説した。いくつか反論もあったが、白岡のおかげで彼女も了承してくれいてる。何はともあれ、後は彼女にお任せするしかない。
 だから僕は、四日ぶりの予備校へやって来ていた。
 KKさんの事が気になって、講義が手につかないのではないか?
 四日も間を開けて、講義内容に着いて行けるのだろうか?
 そんな予想をしていけど、意外な事にどちらもハズレだった。
 手が付かないのではなくて、講義なんて聴く気も湧かなかった。
 まぁ、講義内容の進み具合に関しては、かなり進んでいた。
 けれど、こんな同人誌みたいな装丁の教科書の上での話でだ。
 冷静に考えれば、中学高校の復習なのだから着いて行けて当然。あれほど熱心に書き写していた、教室正面のホワイトボードも、眺めるだけで何を云いたいのか理解できた。
 でも、やっぱり頭の中はKKさんの事ばかり。学校が判ったのだから乗り込んでしまおうか。駅ではなく、校門で帰りを待とうか。そんな強攻策ばかりが浮かぶ。
 リミッタ―だ。
 この、予備校の狭く窮屈な席に身体を押し込んでいる事は、リミッタ―でしかなくなった。自分では抑え切れそうに無い衝動。自分でさえも想定できない暴走。それを防ぐ為の僕自身にかけた封印だ。
 不完全燃焼な心理のまま、聴く気も無い古文の講義に耐える。僕の心の中には、仏教的無常観などなく、一酸化炭素的な鬱憤が募っていく。鬱憤に中毒死しそうだ。喉がチリチリと痛い。
 そんな時、

「宮代真駒ーーー!! 宮代真駒ーーー!!」

 僕の名前を叫ぶ声。
 あの声は、昨日の蓮田嬢。何か解ったのか!?
 講義の最中だと言うのに、僕は荷物片手に立ち上がった。
 講師や周囲の反応なんて無視。他の受講生も押し退け駆け出す。
 扉を開け放ち、

「こっち、こっち!!」

 叫び返すも蓮田嬢は見当たらない。
 僕がどの教室で講義を受けているかなんて、知りっこないのだから、予備校中を駆け周って叫んでいる。
 僕の声に気付いたのか、階段のところから彼女が飛び出す。
 その姿に絶句。

「メイド服!?」

 蓮田嬢は仕事着のまま予備校を疾走。同他の教室から出てきた講師や受講生達も、彼女のいでたちに途惑っている。

「何て恰好で来てんだよ君。街中でメイド服なんて」
「宮代っ、いいからこっちこい!!」

 問答無用に僕を引っつかむ蓮田嬢の右手。
 逆に講義を妨害された講師と、職務に忠実な警備員が、彼女を取り押さえようと迫った。先ずは警備員が背後から。
 遅い。
 メイド服の少女は、相手の双腕よりも下に身体を落す。
 低姿勢をもって左の肱を後方へ旋廻。
 直撃。肱打ちが警備員のわき腹に決まる。
 次いで拳術の教本通り、顎へ裏拳。
 たった二発で崩れた警備員の腰から、特殊警棒を抜き取とった彼女。正面へ向き直る動作と連動し、一振りでそいつを伸ばす。完全に振り向いた時には、既に特殊警防は鈍器として本来の姿を取り戻していた。

「ひっ!!」

 対して正面から迫るは、格闘技でもやっていそうな大柄の講師。
 道具を使ったケンカに慣れていないのか、単に武装したメイドに恐れをなしたか、
 体格に似合わない悲鳴をこぼし、一瞬の硬直と僅か後退。
 蓮田嬢は、その隙を遠慮なく突いた。
 ホワイトボードを指す指示棒を何倍も太くしたような、ジェラルミン系合金の剛直を講師の腹に突き打つ。
 たったそれただけで、沈黙が訪れた。

「速く来い!!」

 もう誰も追ってこれないのに、このコは僕を引っ張り駆け出す。
 連れられた場所は、予備校の玄関前。もう一人の少女がいた。
 吉良大付属女子の制服。KKさんと同じ色のリボンタイ。
 一瞬、KKさんかと思ったが、・・・違った。
 確か、KKさんの写真の中に一緒に写っていた娘。

「君は?」
「バカにしないで下さい!! 今頃になって今日子とメールをしているなんて、バカにしてるんですか!!」

 僕の質問なんか応えも、聞きもせず、彼女は怒鳴ってきた。怒りに涙と悲しみが混じった、荒々しい叱責。
 バカにしている、何の事だが解らない。
 今日子、それがKKさんの名前なのか?

「宮代、あんたのメール相手はな、今日子先輩はな、一年も前に死んでいるんだ」

 蓮田嬢の口から出た、信じられない発言。
 はぁ!?。益々、訳が解らなくなった。

「死んだ・・・?。俺はKKさんとメールのやり取りをしているぞ。時間を超えてメールが届いてるとでも言うのか?」
「ふざけないで下さい。コッコは、今日子は去年8月に、自殺しているんです。なのに貴方は、あのコを冒涜するみたいに、今頃になって・・・、何で・・・一年前に・・・」

 力の限り僕を叱責する少女。最後は言葉にならなくなる。でも絶対に許さない、という怒りを、涙を流し続ける視線に込めて僕を射抜く。

「っ・・・・・・何で・・・で・・・く・・・っ」

 最後に何かを、僕が地獄に落ちる様な事でも言おうとしたのだろうに、それさえも出来ず、彼女は泣きながら走り去っていった。
 三月の情景が、また重なった。
 そしてやはり、/kooko/をコッコと読むのだろうか。

「コッコとKKさんは同一人物なのか?」
「ああ、そうだ。今日子先輩のあだ名がコッコなんだ。/kooko/も今日子もKKも同一人物。だからあんたがチャットをしたりメールをやり取りした相手は、幽霊なんだよ」

 そんなバカな。
 幽霊がオンラインゲームをしていたとでも。どっかのSFじゃあるまいし、KKさんはネット上に残った残思だとでも。

「いい加減にするのはそっちだろ!!。メル友以上になる気が無いのなら、そう言えば良いだろうに、こんな芝居うって。むしろこっちのドッキリの方が目的なのかよ!!」

 つい叫んでしまった。
 けど、何となく解ることが一つだけある。あの走り去った少女の涙は演技ではない。
 散々女のコの涙を見てきたんだ。嫌でも見分けがついてしまう。
 取り残された形の僕と蓮田嬢。互いに無言のまま、何故か二人いっしょに家路へとついた。

 
 
 


 
 ディスプレイが放つ淡い光に照らされながら、インターネットへ繋がるのを、僕はじっと待っていた。
 ネットへ繋がり、ROのウインドウも青いバーが動き出す。
 そして、いつも使ってるワールドのゲームサーバーへ。
 ・・・いた。
 やはり/kooko/はいた。
 
宮代真駒:やぁ、「ごきげんよう」
/kooko/:w
/kooko/:何それ、「マリ見て」?
宮代真駒:うい・・・。今どこ?チャット開いて話さない?
/kooko/:今はプロだけど。ミルク屋の前はどう?
宮代真駒:ごめん、軽い所が良い
/kooko/:むぅ我がままだね。東口の外でどうよ?
宮代真駒:OK
 
 しばらく時間がかかってから、僕のPCはその場へ到着。既に/kooko/が、定員2名のチャットルームを開いていた。
 
/kooko/:遅かったね。どうしたの。
宮代真駒:回線が弱くてね。
/kooko/:いやいやチャットは滅多に開かないからさ
宮代真駒:ああ、単刀直入に言うよ。
     小林、妹さんの事についてなんだが、自殺って本当なのか
 
 単刀直入すぎたか。
 僕は、/kooko/のプレイヤーは小林明日香だと判断。確信なんて、これっぽっちも無かった。
 /kooko/というキャラ名は、あだ名のコッコからのもの。K Kはイニシャルとすれば、K(小林)今日子。
 別に小林の妹の名前を知っていた訳じゃないし、全ての符号が当て嵌まる訳じゃない。
 推察にも満たない。僕の希望に過ぎなかった。
 けれど、
 
/kooko/:なんでわかったの
宮代真駒:9割は勘だよ。メールの内用は、修学旅行とかお呪いとか、
     去年の事が書かれていた。だから、
     ”うちのおねぇちゃんが、真駒さんと同じクラスなんです”
     ってのも去年の事。高校のクラスの事。
宮代真駒:俺は三月にふられたとしか書いていない。
     なのに確かお前は、同級生、と言っていた。
/kooko/:芳美かもしれないじゃない
宮代真駒:高校のクラスでKで始まる苗字。他に浮かばなかった。
宮代真駒:言ったろ9割は勘だって。
宮代真駒:でもどうして、今日子さんのあだ名でキャラ作って、
     彼女の振りをしてメールを出したんだよ
/kooko/:ふりなんかじゃない。本当に今日子の手紙なの
 
 小林はゆっくりと、書き込み、いや、語り出した。
 僕に届けられたメールは、本当に今日子さんの”手紙”だった。
 去年の春、今日子さんは僕に恋をした。
 その後”手紙”にある通り、友達の手助けで僕の素性が判明。あの泣きながら走り去ったコが、その友達らしい。
 素性がわかっても、声を掛けられず、手紙を渡す事も出来なかった彼女は、郵送も手渡しもしない”手紙”を日記帳に書き始めた。
 それがメールの文面なのだ。小林がそれを見つけたのは、今日子さんの死後のこと。
 もう一つ、小林が見つけた物に、ROのアカウントがあった。自分の名前をキャラに付ける。そんな事を今日子さんもしていたという訳だ。
 そして偶然にも、本当に偶然に、本名のキャラとあだ名のキャラは出会ってしまった。
 
宮代真駒:運命なのかな、こういうの
/kooko/:ちがう、宿命よ。だってあのこはじさつじゃない
/kooko/:あのこは、わたしがころしたんだから
 
 殺した・・・だって。
 事故死ではなく自殺だと言われ、小林の口からは、殺したとの告白。
 漢字変換も間々ならない、ありのままの感情。その中で宿命、と変換された箇所だけが、強く浮き上がる。
 
/kooko/:私もあのコも知らない振りをしていた
/kooko/:私が真駒を好きなことも。
       あのコが真駒を好きなことも。
/kooko/:二人とも知っていたのに、知らない振りをしていた
/kooko/:去年の夏休み。丁度ドラマの再放送の時間帯、
       真駒と電話し終えたら、あのコが手首を切ったの。
       なのに私は無視していた。
       面白くも無い、展開を知っているドラマをずっと見てた
宮代真駒:どうして
/kooko/:だって人は手首を切っても死なないから
宮代真駒:そうじゃない。どうして手首を切ったんだ。
kooko/:あのコが言ったの、真駒と別れてくれ、
      別れてくれないなら死でやるって。手首にナイフ付けて
宮代真駒:何で止めないんだ
/kooko/:だって、私は真駒と別れたくなかった。そう言ったら、
       あのコ本当に手を切って、
       私も本当に切るとは思ってなかった。でも、
       手首切って自殺できるのは、ミステリの中だけだって、
       私もあのコも知ってた。だからドラマ見てた
宮代真駒:それで今日子さんは
/kooko/:しばらく泣いて、リビング赤く汚して、
       自分で救急車呼んでた
/kooko/:救急車の中じゃ意識も在ったし、血もだいぶ
       止まってた。なのに病院に父さん達が駆け付けたら、
       急に体調悪くなって
/kooko/:私が殺したの、もっと早くkyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy
       yyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy

 
 ”もっと早く救急車を呼んでいたら、あのコは助かった”、そう書き込むつもりだったのだろう。
 妹を見殺しにした自分が、共に恋した相手と付き合う訳には行かない。僕が小林に告白するのが、半年早かったならば、起きなかった悲劇。だから「もう遅い」
 今日子さんの死後に日記帳を見つけ、アカウントを知り、偶然僕のPCと出会う。運命なんかじゃない、宿命だ本当に。
 
宮代真駒:今日子さんの”手紙”を出したのは、ともらい?
/kooko/:うん。全部出し終えるまで、
       知られれる訳には行かなかった。文面は同じ、
       私が真駒の前に現れたりして、辻褄を合わせたけど。
 
 妹の書き残した思いを、伝えきらなければならない。だから「まだ早い」
 
/kooko/:なのにバレちゃった。さよならだね
宮代真駒:待てよ
宮代真駒:前言ったよな
宮代真駒:本気で恋してんだねって。してるさ、本気で恋してるさ。
     だからな、KKさんの”手紙”を全部よこせ
宮代真駒:その上で、俺はこれ以上付き合えないって返事を書く。
     俺に彼女への返事を書かせろ。
    「僕は小林明日香が好きだから、
     これ以上付き合えません。ごめんなさい」そう書かせろ
/kooko/:どうして。あのコは死んでるの。
       KKも/kooko/も存在しないの、仮想の存在なの。
宮代真駒:仮想も現実も関係ない。窓を開けて外を見ろ、今すぐ
 
 僕の勝手な言い草に、小林は直ぐには動かず。少し恐がるように、ゆっくりと実行した。
 そして気付いた。窓の直ぐ下に僕がいる事を。トリックを理解出来ているかは別として。

「真駒、どうして、何で」
「ほらこれ、ノーパソとエアー H゛。これで接続していたんだよ。だから回線は弱いし、接続に時間はかかるし」

 小林の家のベランダの直ぐ先、物置の屋根に僕は座っていた。前日の雨でまだ濡れてる所に座り、パンツの中まで湿らせても待っていた。これから言う一言の為に、

「仮想も現実も関係ない。死者も生者も関係ない。同じ空の下なんだ。ネット上で何かをしようが、一年時間がずれようが、同じ空の下でのことなんだ」
「わけ、・・・解らないよそれ。わけ解ら・・・ないよ、それ」

 ベランダの手摺にぶら下る様に、小林はしゃがみ込む。嗚咽と涙の混ざり始めた声で、わけが解らないと、呟き続けた。
 僕だってわけ解らない。
 けど、どんなにネット上で身分を偽っても、場所は違えども相手は同じ空のしたにいる。たとえ相手が死んでいても、かつてその人は同じ空を見上ていた。
 だから、人として本気で向き合わなきゃいけない気がする。
 そうしなければ、僕も小林もダメなんだ。
 

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